業界の実際

●278パーツ

P社全盛の頃、スキーウエアには実に278ものパーツが使われているというTVCMが流された。
ワールドカップスキーが深夜枠で放送されていた頃である。
CGでウエアのパーツが空中を回りながら渦を巻くように集まり、一着のウエアの形になっていくという映像であった。
この内容は新聞広告でも掲載され、P社の真摯な商品への姿勢をアピールしようとしていたわけだ。
さまざまな目的のためいろいろな材料を組み合わせ、それを丁寧に組み立ててウエアはできているのですよ…という趣旨であった。

このプロモーションに選択されたのは「マウンテン」という商品で、カラーブロックと呼ばれたデザインが特徴であった。
文字通り数色のブロック状のパーツを多数縫い合わせたもので、ビジュアル的にはこのプロモーションに最適であった。
私は担当ではなかったが、撮影用にパターンを用意していたのを覚えている。

この時代、じわじわとスノーボードがウインタースポーツ市場に浸透しつつあり、ウエアも一方ではシンプルなデザインが勢力を伸ばしつつあったのだ。
これらシンプルなデザインになると確か100パーツもあれば形になってしまっていたはずだ。
スキーをするための機能だけを満たすならばもっと少ないパーツ数でウエアはできる。
それが、表に見える部分や見えない裏の部分まで日本一手間をかけて複雑なウエアを作っていたということなのだ。
当時、私も個人的には278という数を一般の人が見て感心するものなのか?と思った。

同じような見え方をするウエアをもっと手間を省いたやり方で作ることはできたと思うし、少なくとも他のメーカーはもっと生産性を重視していた。
まあ、開発現場にいた我々は、「手間をかけた分は実際に触れてみてもらえば分かってもらえる」と自分で自分を信じ込ませてやっていたようなものだ。
意地悪な言い方をすればメーカーの苦労をユーザー側に押し付けるプロモーションであったかもしれない。
しかし、そのときはそれがP社の価値観であり、アイデンティティであったともいえる。(今はちがうよ…)

その後確立したスノーボードの市場はスキーに対するアンチ的な価値観を持っていて、過剰な装飾を嫌う傾向が強かった。
皮肉なことにその後不景気が深刻になると、濡れない・蒸れない・軽い…といったような実質的な機能をスキーウエアも重視するようになり、パーツ数も大幅に減っていたのだ。

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