業界の実際

●アクセサリーの流行廃り【1】

「アクセサリー」というと業界では、メインの商品に対して「付随する小物」という意味合いで使われる。
スキーウエアに対して、帽子や手袋、バッグ、靴下、アンダーウエア、などなどが「アクセサリー」である。(これはスキー板やブーツの場合も同様)
世の中、作るものごとに業界ができているもので、P社はスキーウエアメーカーだからスキーウエアを作る設備とノウハウを持っているが、例えば帽子となるとスキーウエアの工場では小さすぎて作ることができない。
また、ニット帽などは糸を編んで作るので根本的に作り方がウエアと異なる。
そうなると編み物の業者に生産を委託するのである。
様々なスキーブランドのアクセサリーがほとんど同じ工場で作られていた…なんてこともよくあるのだ。

さて、ウエア本体にも流行があるが、それはアクセサリーにもある。
例えばバッグなどはスキーに行くスタイルとアイテムの変遷に密接な関係があった。

大昔、列車でいっていた時代は網棚に吊り下げるフックつきのスキーケースがたくさん売れたらしい。
なぜ「〜らしい」になるかといえば、私が仕事としてこの業界にかかわるはるか以前の話だからである。
列車にスキーを持ち込むと長いものであるから大変に邪魔になる。
ならばシートの頭上に開いている空間にぶら下げてしまえということなのだ。
入社当時、すでに大ベテランであった先輩社員から聞いた話である。
昭和のスキー行の特徴であったフックつきスキーケースは平成に元号が変わるとほとんど絶滅していった。

これが大学生などの若者が大量に夜行バスでスキーに行く時代になるとバスターミナルまで荷物を運ぶキャスターバッグがクローズアップされてきた。
「フックの無い」スキーケースを背負って、キャスターバッグをゴロゴロ引きずっていくのが、当時「流行で」スキーに行く若者の標準的なスタイルだったのだ。
とにかく大量にキャスターバッグは流通した。
大量に売れるならば、少しでも安く作れば儲けは多くなる。
先にお話したとおり、ウエア以外のアイテムは専門業者に委託して作るのだが、これらバッグに関しては社員泣かせの事件が多発した。
当時、アクセサリーの生産を担当していた教祖の知人sakanaya氏はこう語る。

「私の記憶で強烈に残っているのはキャスターバッグの不良品の山でした。
当初は日暮里にあった鞄メーカーT社にキャスターをOEMで作ってもらっていました。
ところが、あまりの原価の高さに激怒したアクセサリー生産担当の課長が某資材メーカーと共同開発(と、言ってもT社のパクリ)したのでした。
キャスタ底(プラスチックのバッグ底にキャスター車輪が付いたもの)は海外で作られ、日本の協力工場と海外の工場へと運ばれ、当時の勢いあいまって相当数が作られました。」

「さて、製品は無事納品されましたが市場に出回ると、出るは出るはの修理品の山!
これまた当時修理担当の私が全て処理し、営業から怒られまくり平謝りの日々が続くのでした。」

当時、P社では破損した製品の修理は主として営業と生産から人が集まり対応していた。営業側の人間はユーザーからの苦情を直接受け、その鬱憤はモノを作った生産担当にぶつけられるのだ。
しかし、sakanaya氏はそれに屈することなく製品の改善に取り組んだのだった。

「原因究明をメーカーに促し出た結果が成型部品にありがちな空気の抜けが悪く「鬆」(す)が出来ていたことと、工員の不慣れによるキャスターの取り付け不十分でした。
翌年はその部分を改良しこれで今年は大丈夫と思ったらまた不良が出て1年前と同じ状況。さらに平謝りで毎日会社に行くのが憂鬱な日々が続きました。
三年目を迎える前に私は自分自身で原因を追究しようとキャスターの形状、軸の経の大きさや留め具の形状などを比較しメーカーに提出。
試作をつくりキャスターにはめて荷物を満載した状態で最寄駅の階段を何往復もしました。
結果、数量は減りましたが多少の不良は出てしまうのでした。しかも、過去に作られたキャスターはシーズンに入ると次々と修理に来るのでした。」

元をたどれば企画担当、ACCの材料発注担当のミスの尻拭いではないかと思われる。
sakanaya氏は自身がまるで営業に対する生贄であったと回想する。
もう一方の主役、スキーケースに関してもsakanaya氏は回想する。

「サンプル(展示会見本)と量産を異なる工場で作る事は当時のP社のACCとしては異例のことでした。
しかし、さらなる利益拡大、原価率軽減を求め原産地の模索の真っ只中、日本橋にある某かばんメーカーにスキーケースのみ約5000本の生産の依頼をしました。
いろいろあったものの納品が終わりこれまたシーズンイン直前、営業から・・・スキーケース傾いて危ない!という連絡が…」

「どうやら普通に背負うと後傾してしまうとのこと。原因はサンプル時よりさらに原価を下げる為、工場が仕様を一部変更し工程を少し簡略(これ自体は良いことであった。)した際にベルトの取り付け位置まで変更して(見てくれを良くした)重心が変化していることに誰一人気づかなかったのです。
量産時にたまたま担当だった私は店からの返品修理、倉庫の在庫の修理の入出庫など生産側で出来ることの全てを負わされ上記のキャスターBAGの件とあわせ不良品大魔王となったのでした。
これ以後、サンプルチェック体制をなんとかしようとかいろいろな論議がなされたが、この件の責任はなんとなく私が負わされたような形となってしまいました。
ついでにこのケースは韓国で生産されており、ファスナーの引き手が不足したらしく、ケロケロケロッピーのスライダーがついていた商品が何本かありました。」

この件については私も記憶していて、会社のショップに入っていたスキーケースを背負ってみた覚えがある。
なるほど、ベルトの付け位置が下により過ぎていて、背負うと大きく後ろに傾いてしまった。
車に放り込むだけなら問題にならなかったと思うが、当時はバスターミナルまで背負っていかなければならないのでかなりシリアスなクレームになっていたはずだ。
しかし、バスツアーでスキーに行っていた学生達が社会人になり、自分の自動車を持つようになるとスキーケースは急速に衰退していった。
ステーションワゴンのテールゲートを開けてそのまま放り込めば、スキーケースなど必要ないのである。

アクセサリーの流行廃り【2】へ

インデックスに戻る

トップへ戻る
HOMEへもどる