●キャラクター人気と商品の人気 |
今、スキーウエアのカタログ写真といえばコンペの場合、現役アルペンレーサーかデモンストレーターが着用している写真ばかりである。 普通のゲレンデユースのウエアにいたっては普通のファッションモデルが着用し、都内のスタジオでさっさと撮った写真である。 かつてはゲレンデウエアでももっと様々な人がウエアを着て写っていたものだ。 アルペンレーサーといっても引退後のユーリ・フランコやB・クリジャイも登場したし、変わったところでは登山家のメスナーというものもあった。 有名なところではF1ドライバーのプロスト、ピケ、パトレーゼがカタログに登場して話題になったこともあった。(ベルガーもB社のウエアを着て登場していた) 当時は鈴鹿で日本GPが再開したころで、ホンダエンジンの活躍もありF1人気が急速に過熱してきた時代でもあった。 当時はスキー好きなF1ドライバー達が春スキーに集まるイベントがあって、F1の世界とスキー界はそれなりに交流があった。 ここで現役ドライバーによるスキーレースが行われており、パトレーゼとチェザリスの二人のイタリア人が火花を散らせていたという。 実際、パトレーゼのカタログ写真は結構良いポジションで滑っていたりする。 当時、スキー関係者が彼の滑りを見たところ、イタリアのCチームなら今でもいけるんじゃないかと言ったという。 プロストやピケは正直…まあ脚を揃えて滑っていますね…という印象の写真であった。 ちなみにベルガーはビデオをどこかで見たのだが、極端な閉脚スタンスで妙にくねくねした滑りだった。 やはりこれだけの人達となるとちょっとクセがある人もいたらしい。 特にプロストは、スキー場でのカタログ撮影時にあまりに天気が良かったため、なかなかサングラスを外してくれなかった。という苦労話を聞いたことがある。 やはり当人の素顔を撮影できなければどうしようもない。 サングラス姿では下手をすると「そっくりさん?」と言われかねないのだ。 「こんな日差しでサングラス取りたくないよ…」というプロストを 「日本のファンはあなたの素顔を待っているのです…」などと、おだて持ち上げて 「そうかい?ではしかたないな。」などと言わせてやっと撮影できたという話であった。 このドライバー達との契約はどうも正規のマネージャーを通さずに直接個人的に契約したらしい。 さすがにいかに景気が良かったとはいえ、正規で何億もの契約はできなかったのだ。 こうして苦労してF1ドライバーをキャラクターにしたウエアは89年に発売された。 一般的には彼らの人気はものすごいものであったが、ウエアのセールスとしてはユーリ・フランコモデルに一歩譲った格好であったらしい。 強気に出てたくさん生産したが、消化するのにやや時間がかかったようだ。 私もこのシーズンの冬、店を見に行ったがユーリ・フランコモデルはどこも売り切れであったのに、プロストモデル、ピケモデル等はまだ入手可能な状態であった。 しかしこのシーズン、P社はスキーウエアを最終的にはほとんど全て売り切るという「伝説」を残している。 まあ、当時はまだ昇り調子であったので売れる機会を逸したのではないかという話になったのではないだろうか。 さてそれから数年後のこと。 スキー競技でもモーグルが注目されるようになってきた。 そこでP社は94年のリレハンメルオリンピックの金メダリストであるJ.L.ブラッサールというカナダ人の選手と契約した。 そのブラッサールがユーザーイベントで来日したときは本当に大騒ぎになった。 今風に言えばイケメンだし、物腰は穏やかで紳士的。 長蛇の列ができたサイン会もにこやかにこなしてまたまた好感度アップ!というわけなのだ。 ユーザーイベントはただ新作ウエアを発表するだけの場ではない。 当然のことながら、人気投票などで実際にどのモデルに人気があるかを調べる場でもある。 これだけブラッサールに人気が集まると、彼をキャラクターにしたウエアがダントツのトップ品番になるのも当然のことであった。 この企画の担当者(私ではないよ)はモーグルという種目は人気が上がっているとはいえ、スキーヤー一般の中ではまだまだ認知度が高くないと考えていた。 ゆえに大量生産、大量販売を考慮しない極めて精緻なデザインになっていたのだ。 しかし、いまだ拡大路線を信じていた販売部門がこんなにユーザーの支持があるならたくさん売れるはずだ…ということで大量生産計画をたててしまった。 生産サイドはこの精緻なウエアを大量に作ることにしばらく躍起となる。 結果は企画者の懸念した通りとなった。 「冬になって雪が降ったから、スキーにでも行こうか…」というようなスキーヤーはモーグルなんて良く知らない。 「ブラッサール?誰?」というようなお客が実は世の中の多数派だったのである。 販売するほうはかなり苦労したはずだ。 プロモーションのキャラクターの人気なのか、ウエア自体の人気なのか、その見極めを間違うと大変なことになるということだ。 以後、ユーザーイベントでの人気投票に関しては「どんな志向のスキーヤーが」「どのウエアを支持しているか」というように分析されるようになったのは言うまでもない。 |
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