業界の実際

●キャラクターつきウエア

94年頃のことだったと思う。
いきなりスキーウエアにコミック調キャラクターが張り付きだした。
仕掛けたのはG社であった。
Eブランドのフランスチームモデルにはニワトリ、Gブランドのスウェーデンチームモデルにはゴリラがデザインされていた。
一応これらには意味があって、フランススキーチームは昔からニワトリがマスコットだったのだ。
昔のR社のスキーのトップにニワトリのマークが入っていたのを知っている方もいるだろう。
スウェーデンのほうは、王者のキングがスウェーデンでは「コング」と発音するとの事でそれでゴリラになったらしい。
実は、フランスチームが実際に現場で着ていたのはイタリアのE社が作ったまったく違うデザインのウエアであって、カタログの撮影のときにココリコつきのウエアを着てもらうだけだったようだ。
しかし、GブランドのスウェーデンはこのG-コングというゴリラつきのウエアを実際の現場でも着ていた。
最初、ワールドカップの緒戦の写真を見たときP社のメンバー皆で驚いて見ていたのを覚えている。
正直「何だ!?これは?」と思ったものだ。

G‐コングは???だったが、しかしフランスチームのココリコはそこそこ売れていた。
ほとんど同じ図案で翌年も作られたことから結構人気があったことがうかがえたのだ。
あるとき安達太良山(あだたらやま)のふもとの岳温泉(だけおんせん)に行った時のこと。
地元のJr.のスキークラブはなぜか「岳アルペン隊」という気合の入った集団で、子供達が揃ってココリコを着ていたので驚いた。
やはりJr版もあったか…と話あったものだ。

初年度は業界全体で懐疑的にこれらキャラクターを眺めていたが、翌年G社が今度はアメリカの「ルーニーチューン」(バックスバニーやトゥイーティなどのキャラクターがある)を、A社が欧州強豪国ナショナルチームユニフォームにスヌーピーを本格的に使うことがわかった。
ココリコはG社内で描き起こしたもので発生しなかったと思うが、「ルーニー」・「スヌーピー」に関してはかなりの額の版権使用料が支払われていることが推測された。
コスト的に見合う企画とは思えなかったので、P社としては版権使用料が発生しないオリジナルのキャラクターを起こす方針がとられた。
この年、デモウエアでは犬のキャラクターが重ね着のベストの背につけられた。
ノウルェーチームモデルも古代のバイキング三人衆の図案がこれもキャラクターの一種ですと言い張ってキャラクターものとして解釈された。
(これはどう見ても屁理屈だったが…)
さらに私の担当する企画でこんなものがあった。
「そういったコンペウエアのキャラクターものを、良いなーと思いつつコンペモデルには手を出さないスキーヤー」
という実に微妙なユーザーを想定した、キャラクターつきウエア。
今思えば実にまどろっこしい内容で、進めている間もどうもすっきりしなかったものだ。

このときは各方面にキャラクターの提案を募って最終的にはオオカミを採用することにした。
何とかチームという制約がなかったので何でもOKなのだ。
商品名はずばり「WOLF」(そのままですな)
素材は軽いものにして、コスト面もやや考慮した商品であったが、売れ行きは…微妙なところであった。
この「WOLF」君の図案をつめているときちょっとした問題が起こった。
オリジナルの図案では手の指が4本になっていたのである。
アメリカのコミックなどでは動物のキャラクターを擬人化した表現する場合、あえて人間ではないということで指を4本にすることが一般的だというのである。
(これは有名なミッキーマウスなどもそうなっている)
ところが、社長に近いある方がそれを見て、「指が4本だと、指が欠損した人への差別表現になる」と言ったのである。
それを聞いて社長もそういうリスクは避けるべきだとして、図案の修正となった。
ディズニーは長年これでやっているのにずいぶん弱気だなと思い、釈然としなかったがディズニーとP社では認知度が違うしなあ…などと無理やり納得したのであった。

ところが、キャラクター騒動はこれで終わりではなかった。
「WOLF」企画時に何点か候補となるキャラクターが起こされていた。
これだけオリジナルがあるのに使わないのはもったいないというのである。
そこに大きなワッペンを格安で作る業者があるという売込みがあったという情報があり、ではそのキャラクター全てを大きなワッペン(30cmくらいあったか)に仕立て、カラーオーダーのやり方でキャラクターを選べるようにしよう!という企画が勢いで始まってしまったのである。

まずは6月の展示会での見本を兼ねてキャラクターのワッペンの試作品を作らせることにした。
その格安業者の実力を見られると考えたからだ。
試作品はひとまず形になっていたが少々端の処理が粗いかな。という程度の印象であった。
それからオーダーを受けるためのパンフレットを作成し、展示会では自分でお客さんにアプローチして注文をとる。
しかし、集まった注文はなんと10点ほど。
個人的な注文がほとんどで何十人ものチーム注文はまったくなかった。
通常のチーム対応のカラーオーダーと違って、一着からでも注文を受けることにしたがそれが良かったのか、悪かったのか…

少ないとはいえ注文を受けた以上、作らなければならない。
しかし、格安でワッペンを作ってくれる数は数百。
全然話にならない少なさのため、ワッペンの型を引き取って国内の業者で作ることになった。
やっと片付いたかと思ったのもつかの間、今度は実際にワッペンを作る業者から連絡が入った。
ワッペンの型が全然合わないというのである。

キャラクター図案のような多色のワッペンを作る場合、土台となるフェルトのベースに型抜きされた生地をのせ刺繍でかがって作る。
この生地を型抜きする型がいい加減でまったく合わないというのだ。
型を見せてもらったが、確かにズレズレであった。
すきまが随所に発生してまともに作れないはずなのだが、どうやら手動で刺繍を操作してズレの分をごまかしていたらしいことが分かった。
それでは一定のものは作ることができないため、型は作り直すことになった。
その出来具合を見るため私は群馬県の業者まで出張したのであった。
一体最終的にいくらかかったウエアだったのだろうか。
幸か不幸か私はその辺は聞いていない。(聞く気にもならないが)

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