業界の実際

●開発試験・製品試験

皆さんは「開発試験」「製品試験」と聞いてどんな光景を思い浮かべるだろうか。
立派な実験施設で最新の測定機器が囲む中で、白衣など着た人間が試験している光景だろうか。
あるいは一流スキーヤーが着用して、改良点などを提案してもらうといったことか。
実際はそんなに格好の良い場面は少ない。
普通は素材など材料単位で専門の検査機関に依頼し耐久性などのデータ(JIS規格の尺度で表現される)を取る。
JIS規格にない内容や、ウエアの形でしか試験できない内容は独自のテストを行うことになる。

例えば私の先輩は「ポリサーム」という素材の試験で下記のような体験をしている。
それは温度調整機能のある高分子化合物でできている素材で、高温下では熱を吸収して冷却効果を発揮し、低温下では蓄積してあった熱を放出して保温効果を発揮する。
NASAが宇宙服の材料に使えないかと開発した素材で、その技術が民間に出てきたというのである。
「ポリサーム」単体での試験は当然行われていてその効果は実証されていたが、ウエアの形態にしたときにどのようになるかということは当然ウエアメーカーの領分である。
そこで、ウエアに仕立てて着用試験が行われた。
具体的にはこうである。
真冬の群馬県赤城山中のとある山荘。
そこにはサウナが備えられており、背後の山にはスキー滑走のできる斜面がある。
超高温環境と低温環境がドア一枚で行き来できるのだ。
そこで先輩が行った試験とは、アンダーウエアは最小限で「ポリサーム」入りのウエアを着用し一定時間内でサウナとスキーゲレンデを往復するというものであった。
その間、温度センサーでデータが記録されていく。
これは誇張ではなく、温度差最大100℃にもなるのである。
こんな試験を行えば確かに素材の機能性も測定できるだろうが、身体も酷使する。
先輩は当然のことながら試験後体調をくずしたようだ。
しかしこれはまだ格好の良い方だったと思う。

一番格好の良くない試験を私は体験している。
前項で述べたストーンウォッシュについて「着用しているうちに色が落ちてくる」という苦情があったというのだ。
冷静に考えれば顔料を落とすことでその表面感を出しているのだから、何かこすれれば色が落ちるのは当然であると言いたいところなのだが、そうはいかないのが日本なのである。
そこで、私に下った指令は…
「ストーンウォッシュ」のウエア(パンツ)を着用の上、スキー場でスキー滑走をしながら何度も転倒せよ!
というものであった。
試験の現場は、P社の直営ホテルのあった奥志賀高原スキー場。
普通、スキーの練習といえばいかに転倒しないようにするのもだと思うが…。
仕事だから、私はリフトから降りるととにかくスライディングするように何度も転倒した。
ところが、季節は冬真っ只中。
軽い新雪がフワフワと積もったゲレンデで何度転倒しても雪にまみれるだけでさっぱり摩擦が起こらない。
そこで、次に受けた指示が、「とにかく、ウエアと雪を摩擦せよ!」というものであった。
仕方がないので、スキーで滑走しながらというような格好の良いやり方は放棄して、とにかく「擦り付ける」ことにした。
どうしたかって?それは…
ストーンウォッシュのパンツを着用して尻を雪に擦り付けるのである。
奥志賀のホテルの近くの雪をたたいて固め、椅子のような形状を作る。
そこに座るようにしながら、腰を上下させてウエアと雪面を摩擦させた。
「腰を上下」とか「摩擦」とかいうと卑猥な響きがあるが、その時は当然必死なのだよ!
雪の椅子でスクワット運動をするようなもので、体力的にも大変だった。
一時間近くその動作をしていたはずだ。
P社直営(当時)のホテルのレストランから見ていた担当者が笑っていたことを覚えている。

やはりというかなんというか、そのような試験を行ったら確かにウエアの顔料の色が雪面に移っていたのでした。
だからといってストーンウォッシュを全面的にやめるわけにもいかず、「やはりそうか」ということで「色が落ちることがあります」という内容の注意書きがウエアにつけられたのであった。

●信者の広場に書き込まれた「ささ」氏の思い出話

私も防水透湿だけでなく、結露防止機能をもつというDiAXXXXの「人体実験」に出動したことがあります。
@氷点下15度の吹雪の中で30分直立不動でいろ!
A一緒に行った中級レベルの人と同じ運動量になるように、奥志賀のホテル裏の急→緩斜面(1km位?)を全部小回りで降りて来い!とか…。
Aのテスト中に相方が急斜面で転倒。捻挫してしまい、おんぶして下まで降りてきましたよ。
キツかったー。
でも、今でも市場で見るたびに、開発に関わったっていう嬉しさを感じられますね。

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