業界の実際

●工場の裏作

普通、アパレルの工場というのは夏の間に秋冬ものを作り、冬の間に春夏ものを作る。
しかし、スキーウエアというのは基本的には冬のものなので、春から夏にかけて作り秋から店頭に並ぶというのが基本だ。
夏に向けて作るスキーウエアは存在しない。
あるとしたら、展示会用の見本で1月〜3月位の期間に作られるくらいだろう。

かつて十年以上前は日本国内のP社工場は秋から冬にかけて何を作るかが問題となっていた。
なにしろ、スキーウエアを作る設備というのはあまり軽い(薄い)ものを作るようにはなっていない。
夏でも何かアウタージャケットやパンツでもあれば良いが、あいにくかつてのP社は冬物一辺倒の会社で、夏物の企画自体が非常に少なかったのである。
そこで男物の水着を作ってしのいでいた時代があった。
素材の大部分はスキーの残反(ざんたん=余った生地)を使い、閑散期の工場で縫うという完全な裏作企画であった。

素材はまあスキーウエアとギャップは少ないにせよ、何しろ構造が単純なため少ない工程ですぐに形になってしまう。
工場の配置、設備がスキー用だと多くの人の手を経て工程を重ねて初めて形になるのだが、水着となると工程ラインが極端に短くなってしまい工場内の配置を大幅に動かさなければならないのである。
一番の問題は生産数が少ないという点で、営業活動もスキーの合間であるから水着の専業メーカーのようにはいかないため、どうしても展開店舗、数量も多くはならない。
逆にあまり多くなると「裏作」ではなくなってしまう。
単純な内容ゆえに工場のラインを変えるだけならまだしも、一回の生産数が少ないということはしょっちゅう違うものを縫わなければならないということでこれが非常に効率を落とす。
工場でラインが稼動を始めると最初は不慣れなため作るペースはややゆっくりだが、慣れてくるにしたがってだんだん早くなる。
ある点数をこなすと最大効率になり、最後までそのペースでいくのだ。
一度始めたら、大量に作り続けるのが衣料品生産の効率を上げるための鉄則である。
(有名なところではユ○クロのフリース大量生産)
ところが数量が少ないと最大効率のペースに到達する前に生産が終わってしまうのだ。
メーカー、工場とも裏作と思ってやっていたからまだ耐えられたのだと思う。

こうして裏作で作られた水着の特徴は、スキーウエアと共通する「多数のパーツを精緻に縫い合わせた」デザインであった。
特に当時流行り始めていたMTBをイメージした商品は一時、妙な人気があったことも確かだ。
おそらくそこまで効率の悪いものなど他社は作らなかったので競合商品が皆無であったからだろう。

その後スキーの絶頂期になり「裏作」の必要が無くなった時期もあったが、今では生産工場が皆海外に移ってしまい国内の生産工場はほとんどなくなってしまった。
大きな産業構造の変化である。

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