スキーインプレストーリー
<究極の板と至高の板>
'00−'01年度版

登場人物

八海史郎:本物の板を知る男
現在は月刊スキーマガジンのぐーたら社員だが、
スキーを履くと人が変わったように鋭い人間になる。

野沢祐子:スキーを初めてまだ日は浅いが、 板に対しては天才的な勘がある。
どんな板が優れているか常人より敏感に感じ取ることができる。
温泉好き。

船橋編集長:史郎の上司、お調子者で強いものにまかれる典型。
大メーカーのプロモーションに見事にのせられる。

白馬雄山:スポーツ(特にスキー)評論家で史郎の父、
傲慢ではあるが本物を追求する姿勢には妥協がない。
それ故周囲の人を犠牲にすることがある。

第1話

2000年4月
ニューモデル試乗会にて

某大手スキーショップ主催の試乗会に史郎、祐子、船橋編集長が取材に行く
車でスキー場についた一行。なぜか祐子が運転している。
なぜか車内はほんのり酒臭い。
「まったく、史郎め飲んだくれおって、せっかくの出張取材やる気無いのかね」
と船橋編集長
「そうよ、私だって来期の板が試せるから楽しみにしてきたのに」
祐子もふくれっ面だ。
そんな話を聞いているはずもなく史郎は
「おっ、もう会場に着いたのかい?早いじゃない。祐子君運転うまいね〜♪」
のんきなものである。


試乗会場。
大手メーカーの新機構に船橋編集長はおおはしゃぎ。
祐子も目を輝かせている。
サロモンのパイロットシステム、ワイドテールのエキップ10GSスキー
ロシニョールのTパワーSLスキー、
ディナスターのGSスピードカーブ、
オートドライブ(前半分キャップ構造、後半分サンドイッチ構造)
アトミックのβプロファイル構造
新機軸を派手に前宣伝しているメーカーのテントはいつも黒山の人だかり。
なかなかお目当ての板にたどり着けない人も多い。
ただし地味なメーカーのテントには人もまばらでその格差は年々広がっているようにも見える。
船橋編集長「サロモンのパイロットシステムは本当に楽に曲がれるね〜
私のように年のせいで力が無くてもいとも簡単に回ってくれる。」
「それに軽くて扱いも楽だよ」

ただ史郎はあまり乗り気ではない。
「宣伝しやすい新構造なんて、商業主義丸出しでスキーの本質からすれば意味のないものが多すぎるよ」


白馬雄山登場。
いつもウエアはボグナー(それも本国ドイツ製の高級ライン、日本円にして数十万円する)を着て、ロールスロイスで山に現れる。
あまりにも押しの強いその態度で皆思わず道をあけてしまう。
(ひそひそと)「あれは白馬雄山じゃないか」
「元オリンピック代表で日本人ワールドカップ初入賞記録をした、あの雄山‥」

この試乗会が開かれているスキー場のオーナーの招待を受け、久々に雪上のイベントに顔を出した
「今回は21世紀を前にして、数十年に一回あるかないかの大変革の年と聞いて久々にやってきたが…」


まずは国産のスキーのコーナーに行く雄山。
「ニシザワもカザマもヤマハもなくなったとは、不況の影響もだいぶ深刻というべきか。」


オガサカのブースで
「相変わらず表面、滑走面の仕上げは丁寧。良い仕事だと言っておこう。」
「しかし問題は雪上での性能だ。」


滑走する雄山、
「素直な性格の板ではあるが、まだまだ世界レベルにはほど遠いな」
「特に安定感に不満がある。ハードバーンに入ったらまるで使いものにならないだろう。
所詮、日本という狭い中でしか通用しない代物だ」
「本物のピステを相手にしておらんからこの仕上がりも当然というところか…」


フランス大メーカー(サロモン、ダイナスター)のテント前には大勢の一般客が群がっている。
ダイナスターのSPEED CARVEにいたっては順番待ちが出るほどの盛況ぶり。
メーカー担当者が「これはこれは雄山先生、おかげさまで当社の革新的なニューコンセプトが皆さんにわかっていただけまして、大好評でございます。」
「さあさあ、雄山先生、当社今期イチオシのSPEED CARVEをお試しください。」
試す雄山。
「うむ、確かにターンへの入りやすさという点では昔の板の比ではない。」
「エッジグリップも水準以上といえるが…」
「ただしこの板には決定的な欠陥がある。それは回るばかりでターン後半の走りがほとんど無いということだ。」
「下に落ちていかない板ではタイムの出るはずもない!」


次にサロモン、ここの担当者も忙しそうだ。
「雄山先生、当社のレース実績はご存知だと思いますが、一般レーサーの方々にもこの良さが浸透しつつあります。」
EQUIPE10 2V Poweraxe Raceに乗ってみて雄山、「こんなものは乗るに値しない!もともとスキートップの安定感に問題のあるからといってトップ幅を狭くしてブーツセンターを前に持ってくるなど単なる対症療法ではないか!」
「新しい仕掛けばかり無理に作って、スキー性能の本質がまるでできていない。」
「レーシングスキーで肝心なのは乗り手の技量をしっかり受け止め、最速のラインをぶれることなくトレースする性能だ!」

「ダイナスターもサロモンも真に技術を駆使できる人間の使用には到底耐えられん!」
サロモン3Vにいたっては、
「なんだこれは!自分から加重するとずれてしまうではないか!」
「これでショートターンがうまくできるようになるというのか!こんなものをありがたがってはいている奴は技術の本質のわからない大馬鹿ものだ!」


アトミックを試してみる雄山、
他にも試そうとしている一般ユーザーの人だかりができている
「レースであれだけ勝てばこれだけ関心が集まるのも当然だが‥」
一般客の話し声が聞こえる
「すげえエッジグリップ良いよ」
「どんどん切れ込んでいくね…」
そんな声を聞くでもなく雄山の眼が光る。
「アトミックといえばまともに踏まねば曲がっていかないとよく言われたものだが、
リーゼンでサイドカーブ22mとは思い切ったな。」
メーカー担当者がすかさず、
「雄山先生、最近はポールセットも深まわりになってきておりまして、草レースでも結構な振り幅のセットが増えてきているそうでして…」
「βrace 10.22と言えば、あのヘルマン・マイヤーも使用している常勝の板でございます。」


「スラロームは16mか、顔を向けるだけで曲がっていきそうだが。」
またもメーカー担当者がすかさず、
「こちらはあのベンジャミン・ライヒをはじめとするオーストリアの若手注目選手使用のスラロームスキーです。アトミックらしいハードさを色濃く残していると好評いただいております。」

スキーに手をふれる雄山、
「ムッ‥」
(なんとも不自然な形だ。)
滑走してみて、ますます不機嫌になっていく雄山。
「βプロファイルなどと気取ってみても基本的な剛性管理ができていない。エッジグリップがセンターに偏りすぎている。特にトップが弱すぎる。」
「形も不自然なら乗り味も不自然だ。板の性格を乗り手に押し付けるとは本末転倒。選手がこのような物を使っているとは思えん。客を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


「実績があるといえば当社はアルペンスキーの歴史を作ってきた自負があります。この板をぜひお試しください。」とロシニョール担当者
9X PROを試す雄山。
「うむ ロシニョールらしいそつの無い仕上がりといえるが、これもトップが弱い。本当の選手用がこのような物であるはずが無い!」
「相変わらず樹脂で作った安上がりの心材でごまかしているようだな。」


「アトミック、ロシニョール、どちらも相変わらずアマチュアレーサーには生ぬるいスキーを出しているようだな。」


フィッシャーを試してみる雄山。
RC4 WC RACECARVE PRO Accelerator(GS用)
「昔からしっかりした板を作っていたはずだが‥」
手に取ってみて、
「ムッ‥」(ずいぶんとプラスチックパーツを多用するようになったな)心の中でつぶやく雄山。
滑走して、
「確かに安定感は悪くはないし深まわりもかなり楽に入っていける。剛性感も申し分ない。
だが、乗り手の踏み加減に自然に反応する粘りが感じられない、乗り味に深みがない。」
「フィッシャーも板のサイドカーブを乗り手に押し付けるようになってしまったか…」


「カービングスキーもだいぶ進化していて、今は数十年に一度の変革期と聞いたからこそわざわざこんな山の中まできてみたが、どうやら今回は無駄足だったようだな‥」
「やはり、今はまともなスキーと言えば選手用のものしかなくなってしまったようだ。」


そこに史郎が
「相変わらず、了見の狭い男だな。」


「ほう、久しぶりだな史郎。
厳しい練習に耐えかねて逃げ出したおまえがずいぶん知ったような事を言うものだ。」 と雄山、

「なにを!おまえはスキーを極めたと言われるかもしれないが、
家庭を顧みず、母さんを死に追いやった。」
「そんな人間にスキーを語る資格はない!」
いきなり親子喧嘩を始める史郎と雄山。


「ちょっと! 久しぶりに親子再会したみたいだけどこんなところで喧嘩始めないで!」
祐子が仲裁に入る。
「お嬢さん、こんな半端者の言うことを鵜呑みにしてはなりませんぞ。」

船橋編集長も「まあまあ雄山先生、普通のスキーヤーにとって、ここに出てきているスキーはそれを履くだけで上手にすべることができるといういわば魔法の板なのですよ。」
「私たちはそのことを広く知ってもらおうと取材しているんだ!」

史郎、おまえもこのような半端な板を客に売りつける連中とぐるになっていたか!」
「だいたい活字でスキーを語ろうとするなど片腹いたい。」

「なんだと、半端物かどうかこの板を試してみてから言ってもらおうか。」
ブリザードのSLKを差し出す史郎。

「ほう、ブリザードとは面白いものを出してきおったな。どれ、一般人をどれだけ馬鹿にした板か試してやろうか」と雄山。

史郎が言う「オーストリアでもグループ化し、拡大を図るアトミックのようなメーカーもあれば、そうではない道を選ぶメーカーもある。」


雄山、手に取ってみて、「キャップ型の構造にしてきているのか…」
「素直にサンドイッチ構造にした方が素直なフレックスが出せるはずだが。」
「中央に溝を切ったりしてアトミックのβプロファイルと同じような効果をねらったのか?」


「この一見キャップ型にみえるのもちゃんと理由があっての形状だ。」
「とにかく履いて見ろよ。」
史郎が答える。

雄山がブリザードを試す
「むっ、このバランス…回転性とフォールラインへの走りが両立している。」
「雪面をなめるような安定感もある」
「他のカービングSLと違って、踏めば踏んだ分量だけたわみが生じ、乗り手の意志にリニアに反応していく。」
「自分の通るラインを最後の1センチまで感じ取ることができる。足に目がついていてエッジングするところを間近で見ているようだ。
ショートカービングでこのような味が出せるとは…」


祐子も試してみる
「まあ、最初はあまりの短さに不安定じゃないかって思ったけれど、滑り出すとすごく安定しているわ。」
「しっとり落ち着いた感じなのにショートターンが面白いくらいにうまくできる!」


船橋編集長も、
「ほお、これは不思議なくらいうまく滑れる。」
「史郎、こりゃあすごい板だねえ」


次にヘッドのSlalom Worldcup Tiを持ち出す史郎。
「次にフルメタルジャケットのヘッドを試していただこう。手であおったりするとかなり柔らかい反応が感じられるはずだ」


あおってみる雄山。
「確かに、かなりフレックスは柔らかめの設定のようだが…このような厚みの無いトップで安定した挙動を示すのか?」
滑走してみて、「柔らかさの中にしっかりとした粘りがある。踏みつける力に負けるどころかそれなりの反発力で逆に走りを引き出すとは…」


「すごく柔らかなしなり方をするのになぜかしっとりなめるようにターンしていくわ。」
と裕子。

船橋編集長も「うひゃあ、失敗したと思ったのにまたもとのラインにいとも簡単に戻せるよ。こりゃあ不思議な板だね。失敗をここまでカバーしてくれるなんてうれしいね。」


史郎が言う
「これらはショートカービングの中でも次元の違う仕上がりになっている。」
「ウッドコアにメタルシートを使用しフレックスに粘りを持たせているんだ。フランスの大メーカーのように金型にプラスチックを流し込んで大量生産するスキーとはまったく違っている。」
「ゲルマン民族の作ったスキーはドクター(博士)が設計し、マイスター(職人の親方)が作り上げているといってもいい。」


「そうか、自動車も飛行機もドイツ製のものは設計者が博士号を持っていることが多いんだよね。ソーセージから工業製品まで資格を持った職人はマイスターと呼ばれているんだ。」
と船橋編集長。


「ほう、知った風なことを…ならばブリザードのリーゼンと、わしがこれから用意する板を比べてもらおうか!」といいつつ、助手に一組のスキーを用意させる雄山。


一同、カバーの外されるのを見守る!
「本物のリーゼンの板とはこのような板の事を言うのだ!」
シルバーののっぺらぼうな板が現れる。


「くっ、それ(ノルディカ)を出してきたか。しかも9.1ではなくK0.0GSとは…」
さすがに一目で正体を見破る史郎であった。


わしらが試しても意味がない。そこのお嬢さんと、貴様の上司に乗ってもらうんだな。」


まずブリザードを試す裕子と船橋編集長。
「硬そうに思えたけれど意外とスムーズにターンに入っていける!それでいて後半の走りはものすごいものがあるわ。」
「確かに走りは素晴らしいけれど、ずっとはいていたらちょっと疲れてしまうかも…」裕子が感想を述べる


「いや〜、確かにターンへはすっと入っていくけれど、後半の走りがわたしにゃきついね。」と船橋編集長。


「それではノルディカを試していただこう。」と雄山。
「なんだか思ったより柔らかい感じがしたけど、気がつくとどんどんスピードに乗っている!」
「タイムもこれなら結構でるんじゃないかしら。」と裕子。
続いて船橋編集長も…
「うひゃあ!こりゃあ不思議な板だね!しなやかにたわむかと思えばいつのまにかしなりが戻ってどんどん下に進んでいく!」
「史郎には悪いがあたしにゃこっちのノルディカのほうが楽に確実にタイムが出そうだよ。」


「どちらもウッドコアにメタルの粘り感を組み合わせている構造だが、決定的に思想の異なる部分がある!」
「確かにそのブリザードも選手用に近い仕上りの板だが、ノルディカと比較した場合決定的に異なるのはプレートのコンセプトだ!」雄山が言う。
「ブリザードについているのは旧態依然とした、ダービーフレックスから基本構造の変わらないもので、ビンディング下のフレックスを制限するように働くが、ノルディカのプレートは板全体のしなりをバランスよく均等に出す新世代のものと言ってよい。」
「結果、ノルディカのほうがマイルドな乗り味でありながら、乗り手の踏み加減に敏感に反応してその時々最適なしなりを作り出すのだ!」
「しかも、乗り手がリスクを感じる事も無く最速のラインをトレースできる!」


「確かにブリザードのリーゼンは後半の走りを重要視するがために、敢えてあのプレートを装着した。そのため、乗り手に多少の負担を強いるという部分はある。」と史郎。
「だが、僕の言いたかったのは、ブリザードやヘッドのスラロームモデルがルーツをエクストリームカーブスキーに持っていながら、こんなにもレーシングとしてすばらしいものに仕上がったという事実なんだ!」


「がっはっははー!そのような遊び用のスキーがまぐれ当たりしたようなものなど、評価に価せんわ!」
雄山が一喝する。
「レースで勝つべくして作られ、そのように仕上がったスキーこそ本物の板なのだ!」
「だが、まぐれにせよこのような板が合ったとは、今日の唯一の収穫と言えるだろう!」
「帰るぞ!」


走り去るロールスロイス。


「相変わらずの競技選手用至上主義だな…」
史郎はつぶやいた。


「雄山はブリザードやヘッドのスキーを評価していたんじゃないの?」
裕子が言った。


「あの男がそんなことを考えるはずもない!」
「大体、プロモーションに踊らされている日本のスキーヤーもいけないんだ。自分の滑り方に確固とした自身が無いからなんとなく滑りやすそうな宣伝文句のついたスキーに飛びつくのさ。」
「店も派手な売り文句があったほうがお客を洗脳しやすいから、単純なスキーヤには一見画期的に見える大メーカの板を売りつけるし、それをまたありがたがってしまう困った人も出てくるのさ。」
「そう、編集長みたいなひとだよね…」


「なんだと!!史郎!!失礼な!!」


数日後、
スキーインググラフィック誌発売
船橋編集長が、
「ライバル誌だけど、こんな記事が載ってるよ!」

皆が見ると、
「白馬雄山、ブリザード・ヘッドスキーを激賞!新時代を切り開くショートカービングスキー」

第1話完。

ここに掲載したインプレッションは私が個人的に感じたことをベースにかなり誇張して表現しております。悪意はございません。

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