説教の記録(1-10)


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1:2001年10月18日「業界にお金を落としましょう」

2:2001年10月22日「田舎の親子、都会の親子」

3:2001年10月28日「何cmを選ぶか、何cmを必要とするか」

4:2001年11月1日「うさぎとかめ―あきらめないこと」

5:2001年11月13日「サロモンデモ10パイロット3Vが売れている」

6:2001年11月20日「直滑降―基本中の基本」

7:2001年11月26日「技術習得の中での直滑降」

8:2001年12月1日「カービングターンの中のスキッド」

9:2001年12月3日「ショートカービングのサイジング」

10:2001年12月8日「人生の全てがある」

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だいぶ気温も低くなってきた今日この頃。
梅雨明けの時期に猛暑もあったことですし、カマキリのたまごも高い位置に産み付けられて豊富な積雪が期待できるとも言われております。
ただ今シーズンは人口降雪によるスキー場の早期オープンも11月頭から末になるなど、不景気の影響も感じずにはいられません。
このHPをご覧の皆さん!スキー業界にお金を落としましょう。景気を上向かせるには消費者がお金を使うしかないのです。
そして、どうせお金を落とすならばブリザードを買って「神の領域」を垣間見てください。
あなたに真のスキーの感動を!

今日はある親子のお話をしましょう。

東京の某所にある親子がいました。
父は娘にスキーをさせてみましたが、どうも上達しません。
そこでふとゲレンデの一角でレッスンをしていたレーシングスクールに娘を入れてみました。
そのスクールはあまり細かい事は言いません。
体が遅れれば「手を前に出して」とか、ラインがふらつけば「しっかり外足に乗って」とか言うくらいのものでした。
それよりも本数を沢山滑らせました。
娘は面白がって沢山滑りました。

雪国の某所にある親子がいました。
父は若い頃スキーを楽しんでいて、技術にもいささかの自信がありました。
彼には息子がおり、レースをさせていました。
父は息子に最新の理論、テクニックを教え込みました。
曰く、「もっと内足を使え」「左右の体軸の入れ替えを大きく!」
1本滑るたびに熱心に指導しました。
息子は最新テクニックを身につけ、地元の仲間の中ではもう負けないと自負している様子でした。

東京の娘と雪国の息子は同じ大会に出場しました。
娘は見事好成績を納め、その後国体の出場権まで獲得しました。
娘の父はそれは嬉しい思いをしました。
息子は他の選手の中に埋もれてしまい、それより上位の大会に進む事もできませんでした。
息子の父は更に事細かに指導を続けました。

子供に限らず真の基本を身につけるには何が大切か、と言う事がこの親子のお話から判ってもらえると思います。

最近の極度のカービング化によって、マテリアル選びに悩むスキーヤーが多くなりました。
布教活動のページでも述べている通り、板のみならずストックまでも短くなる傾向にあり真面目なスキーヤーにとって頭痛の種は増える一方のように見えます。
「私は何cmを選べば良いのでしょうか?」という話は本当に多くなりました。
ここでは、逆に「あなたは何cmを必要としているのでしょうか?」と問い掛けたいと思います。
あなたがスキーをする時、滑っているのはあなた自身であり他の何物でもありません。
トップスキーヤーがマテリアルに変更を加える時、自身の技術の必然からそれを行いますが、私たちもその点に変わりはありません。
大切なのは何が必要なのか自分で感じる事です。
スキーはスピード、雪質、斜度、マテリアルの反応など全てを自分で感じ取ることでより高い次元に到達する事のできるスポーツなのです。
あなた自身とあなたの周りの世界に耳を傾けてみましょう。

今日はまず、「ウサギとカメ」の寓話を思い出してみましょう。
足の速いウサギが、カメには追いつかれないだろうと途中で休んでいるうちに、
休まず歩きつづけたカメに追いぬかれてしまうというあの話です。

私たち草レーサーにとっでも「まともに勝負したら絶対追いつけない」という人はいるものです。
しかし、本当に未来永劫絶対追いつけないのでしょうか?

どんな名選手でも年齢とともに衰えていきます。引退後ろくにトレーニングをしなかったら、その下降の度合いは比較的大きいものになるでしょう。
あなたが継続的に一生懸命トレーニングを続けていった場合、名選手の下降した能力に追いつく可能性は充分あります。
さらに、スキー競技で100%失敗の無いすべりと言うのはそうあるものではありません。
しかし、あなたがたまたま100%の滑りが出来た時に、いつもは上位の人が決定的なミスを犯したとすれば勝利のチャンスはあなたの元に転がり込んできます。
もしあなた以外の人が全員失敗して、あなただけがノーミスで滑る事が出来れば、優勝のチャンスさえ巡ってくるのです。

あきらめてしまっては、たとえわずかなものでも勝利のチャンスを逃すことになってしまうのです。
逆にあきらめずに努力する人にはいつか勝利の機会が巡ってくる!(かもしれない…)

サロモンのデモ10パイロット3Vが良く売れているそうです。
業界内では、この板をいかに確保するかが売上の良し悪しを左右するとまで言われています。
店側が説明するまでもなく、お客が「これをくれ!」という勢いで買って行くというのです。

スラローム競技から始まったショートカービングスキーの流れは当然、基礎の世界にも入りこんできました。
その結果ショートターンをカービングで行うことが基礎スキーでもはっきりと求められるようになりました。
そこで、基礎スキーヤーは一つの悩みにおちいります。
ロングターン用と、ショートターン用と競技のように2種類スキーを用意しないと検定に受かることが出来ないのではないかということです。
そこにデモ10パイロット3Vが出現し、これ1本でうまくいくように見えました。

興味深いのはこの板が日本用に用意されたものであるということです。
日本独特の基礎スキーという世界で求められているものを出してくる一種の企業努力ともいえるのですが、逆に基礎スキーの持つ海外に無い特殊性を示しているとも言えます。

少しでも楽に上手く滑る事の出来るマテリアルに人気が集中するのはいたしかたないかもしれませんが、真のスキー技術を追求するならまた別の選択肢もあるのです。
ブリザードを履いてみれば別の世界が開けるはずです。

スキーの基本中の基本とは何でしょうか。
外足加重?
いえいえもっと根本的なものです。
それはまっすぐ滑る事、すなわち直滑降です。

フォールラインに向かってまっすぐ滑る事が最もシンプルなスキー技術です。
これをきっちり行うには、まずフォールラインの方向を感じ取ることが必要です。
さらに変化する斜度に合わせて身体のポジションを変化させなければなりません。
直滑降で身体が遅れるようではほぼあらゆる状況で遅れてしまうでしょう。
滑り出しから、どんどん加速する中で雪面が波打ったりしていたらかなり細かい対応力が要求されることになります。

直滑降を斜め方向に持っていくと斜滑降。
斜滑降から直滑降に移る動作はターンの導入につながります。
直滑降から斜滑降に移る動作はターン後半の舵取りにつながります。
このように直滑降は全てのスキー動作の基点になっているのです。

極端な言い方をすれば、まっすぐ滑ることがまともに出来ないうちは、まともにターンは出来ないということです。
しかし近年のスキーのカービング化によって、角付けだけでほとんどのターン動作が出来てしまう状況になり、ますます直滑降などする機会は少なくなってきました。
これからはサイドカーブに乗せられてしまうスキーヤーが増えてしまうでしょう。

スキーの基本は直滑降であるという話の続きをしましょう。
幼い子供に初めてスキーを履かせると、短い斜面をひたすら直滑降で滑ります。
滑りだし、斜面が終わり平坦になって自然に止まるまで子供は斜面変化を感じ取っているのです。
この段階では自分で登れる斜面しか滑らないため直滑降でもそう危険はありません。
その経験の後で、斜面があまりに長いとプルークスタンスか、斜滑降でスピードコントロールの必要があると感じます。
ここまででつまらないと言い出すようならば、その子供はスキーに向いていません。
別の興味があるはずです。早く子供の適正を見極めてあげましょう。
ここで興味があるならば、その次の段階でターンの技術につながっていきます。
子供の頃からスキーの経験がある人が比較的安定した技術を示す背景にはこのような段階的な技術発展があるのです。


ところで、大人になるとこのように段階を踏む事も無くいきなりターン技術を習得しようとします。
結果として、器用にターンしようとしているのに、斜面変化や雪質変化に弱いスキーヤーが発生してしまうのです。
そこで修行方法として私が提唱したいのは、以下の二点。
(1)スキーを始めた人には1シーズン、直滑降しかさせない。
(2)自分の足で登れる範囲の斜面から始める。

最近スキー雑誌を見ますと、盛んに「スキッド」、もしくは「スキッディング」という言葉が目に付くようになりました。
数年前まで、基礎スキーヤーはカービングターンを目指してがんばってきました。
ところが、今ではカービングスキーによってほとんどの人がとりあえずのカービングができるようになってしまいました。(もしくは板のせいでカービングになってしまうというのが適切かもしれません)
そこでSAJのスキー教程はカービングだけではネタ不足になったのか、今度は「スキッド」なる新要素を盛り込んできたのです。
しかし、皆さんだまされてはいけません。
「スキッド」(ズレ)の要素があるというのは当然、当たり前、常識!なのです。
かつてサイドカーブがゆるかった頃というのは、板に加重した結果のしなりのカーブで曲がっていました。
それ以上に急に曲がる場合は「ズレ」もしくは板の「振りこみ」を行わなければならなかったのです。
カービングスキーといってもより深いカーブに対しては「ズレ」の操作は必要不可欠なのです。
ある意味スキー操作の基本は全く変わっていません。すなわち、必要な方向にスキー板を持っていきトップからエッジをかませて加重によって深くなったサイドカーブで回っていくのです。
カービングスキーになってスキー板を方向付けすることが極端に少なくなっただけなのです。
カービングスキーになってスピードコントロールが難しくなったというのは詭弁です。
適切に角付けをゆるくすれば自然にズレが発生しスピードをコントロールできます。
危険度が増したというのも間違っています。
前方を幅広く見渡していれば深回りターンによる衝突事故は回避できるのです。
言われたままの動作しかできないスキーヤーは「ここまでがスキッドでここからはカービング」と言われないと滑る事ができないかもしれません。
しかし、スキーの極意は言われなくてもスキー板の性能を感じ取り、必要な動作を行うところにあるのです。
ブリザードを履くと、まさにその動作を要求され、スキーの真髄を感じることができるのです。

かつて、200cm前後であったものが大回りで170から180cm、小回りで160cm前後(150cm台というケースも!?)と言われています。
最近、スキーは際限なく短くなるかのようですがここでひとつ指摘しておきたいのは長さは短くなっても厚さはほとんど変わっていないという点です。
ということは、短くなったスキー板は形状が箱型に近づいているのです。
実はこのことにより、短くなったスキーはたわませづらく、たわんだ後の返りもきついという現象が発生しています。
本当は短くなったらある程度薄く作らなければならないはずなのです。


これとは別に短くするピッチにも問題が隠されています。
例えば10cm短くするといった場合、
200cmに対しては、10cmは5%ですが、 160cmに対しては、10cmが6.25%を占めるのです。
このわずかとも思えるパーセンテージの差が数字以上の感覚的差異を生んでいます。


つまり小回り用に良いとされているショートカービングのサイジングにはスキー史上未曾有の問題が含まれているのです。
単なる流行でスキーを短くするのではありません。
当然、技術が対応できるかという点もありますが、どのサイズが最適なのかはスキーヤー自身がその時の技術で感じ取るしかないのです。

先日テレビを見ていたら、メキシコ五輪のサッカーで銅メダルを取った時の話が紹介されていました。
その番組の中で、当時日本チームの監督を務めていたドイツ人の言葉
「サッカーには人生の全てがある」


TVドラマ「王様のレストラン」の中で紹介されたあるフランス人シェフの言葉
「人生で起こる全ての事は皿の上でも起こる」


彼らは人生全てをそこに見たと言っていますが、実は彼らは人生の全てをサッカーや料理に費やし、その結果先の言葉につながったのだと考えます。


スキーではどうなのでしょう?スキーには人生の全てがあるのでしょうか?
ここでスキーの特殊性を考えてみましょう。
競技の行われる雪山というのは人間の力で制御しきれない舞台です。
場所や季節によって全く異なる雪質、コンディションとなり人はマテリアルや技術面で対応を迫られます。
またスタート順でも雪面の状況は大きく変わり、とても公平とは言えません。
人生の全てを注ぎ込んだとしても自然に裏切られれば勝利は望めないのです。
このように不安定な舞台で勝利を重ねた選手、例えばステンマルクは「神」と呼ばれました。
人間を超越しているとしか思えなかったからです。
そこまででなくとも我々がスキーを行う場合、雪面の状況の変化を刻一刻と感じ取り、それにあわせた動作を行うことではじめてまともに滑る事ができるのです。
スキーでは人間の人生の範疇に収まらない、我々を取り巻く自然の流れを感じる事ができるということなのです。

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