説教の記録(71-80)


日付・タイトルをクリックすると本文に飛びます

71:2004年1月12日「勝ち組と負け組」

72:2004年1月15日「スキー楽しむということとスキー業界で働くということ」

73:2004年2月20日「検定に関する基本的な不公平」

74:2004年3月28日「05モデルスキーの性能を左右するもの」

75:2004年5月30日「マテリアル変更の条件・理由」

76:2004年6月14日「ブーツのトレンド」

77:2004年8月27日「アテネ五輪―欧米人を上回るには」

78:2004年9月4日「P社、産業再生機構に支援要請」

79:2004年9月30日「スポーツ企業の大規模化」

80:2004年10月29日「自然の猛威の前に人は無力」

前の10話へ インデックスへ 次の10話へ

ここ何年かで、日本は中間層が減って「勝ち組」とも言うべき富裕層と「負け組」とも言うべき貧困層とに階層分化が進んでいると言われています。
そんな世相を反映して家電製品は、最新技術を投入し話題性も高い高額商品と、とりあえず機能するだけという安価な商品に製品ラインナップが二極化しています。
ただ、単純に金持ちと貧乏人ということではなく、その高額さに見合った価値に対して自分の中に必要性が見出せるか否かという部分がクローズアップされているようです。


スキーの世界もそういった状況に直面しつつあります。
貪欲に高機能を求めるスキーヤーと、とりあえず機能すればよいとするスキーヤーに分化が進んでいるといえましょう。
しかし、前者がどこまでも金をつぎ込むかといえば(そういう方もいらっしゃるでしょうが)現実問題としてどうしても限られてしまうでしょう。
後者は当然、はじめから極めて小さな予算枠を持ってスキーの買い物に臨んでいるはずです。


家電製品などは始めからその辺はかなり考慮されたコスト構造になっているから良いようなものの、スキー関係はすべてギリギリのコストでやっているはずです。
ですので、スキーの店での禁句は「どうせ、儲かっているんだろ?安くしろよ」という言葉です。
客としてこの手の言葉を言ってしまったら、わら人形+五寸釘コースだと思って間違いありません。(もちろん店の人間はその場は笑顔で対応してくれるでしょうが)
それでも笑って誰でも、何度でも安くする店があったなら来年にはその店は消えて無くなる可能性が高いでしょう。


スキー自体もこの状態が続けばまるごと完全に「負け組」に分類されてしまうおそれがあります。

この私のような人間でも、「スキーに関わる仕事がしたい」という若者に出会うことがあります。
彼らは大概、眼を輝かせて「スキーという素晴らしいスポーツに出会えたのでその素晴らしさを多くの人に伝えたい」等々と述べてくれるのです。
そんな若者に、「メーカーは?」ときかれれば私は迷わず「止めておきなさい」と答えます。
「店は?」ときかれれば「メーカー程ではないけれどやはりお勧めしない」と答えます。
やはりスキーの良さを伝えたいのならば、スキーを実際に行う現場で仕事をするべきでしょう。


メーカーや店は「顧客にスキーの楽しさを提供…」等と表面上は言っていても、所詮は一定以上の売上げと利益が無ければ会社はあっという間に無くなってしまうのものなのです。
ゆえに会社としての最大の関心事は「売れたか・儲かったか」という点になります。
極端な表現をするならば、会社としては「スキーに興味など無くても儲けるのが上手いのならその人が良い」ということになるのです。
全く関心がないと仕事にならないでしょうから、そこはバランスの問題になると思いますが。


ただ、困ったことに、メーカーや店の人間でほとんどスキーをしなくなった人たちが沢山います。
「最近のスキー場、見てないよ」などと言う人までいます。
量販の偉い方々はかなりの高確率でそれに該当すると思います。
会社や店の維持・発展のために忙しくてスキーに行っている時間がないと彼らは言うでしょう。
現実仕方がないと思われる部分もありますが、そんな人たちが商品を供給していると知ったらどう思いますか?

今年も各スキー誌系のBBSにSAJ検定に対する不満、不信が書き込まれて大いに盛り上がっています。
今日は、検定というものがいかに公平に出来ないものかということを検証してみましょう。


皆さんは検定員の基準が曖昧であるとか、有名なスキーヤーや知り合いのスキーヤーには甘い点をつけるなどと言っていますが、根本的に滑る場所に厳格な基準が欠けているのがまず大問題だと気づくべきです。


国際的に競技として確立している種目の会場には厳格な規定が存在します。
それは、技術や運動の出来栄えをしっかり比較・判定するならばせめて場所・会場はできるだけ条件をそろえなければならないからです。
検定の会場・バーン(最近は「コート」などと意味不明な言葉も使われるようですが)があまりにスキー場によって条件が異なり、場合によっては高度な技術を見ようにもバーンがそれに満たなかったりする恐れすらあるのです。
不整地などは、斜度はもちろん滑走距離に対するコブの数や深さまで規定していくべきであろうと思います。


そうなると、当然基準を満たすことが出来ないスキー場が出てくると予想されます。
実際、レース用のコースはFISの規定を満たさなければ大会の開催は出来ないのですから。
本当に公平な検定を目指すならば基準を満たさないスキー場、斜面は使わないというほど厳格にすべきでしょう。

来季のスキーグッズに関する情報が出回りはじめています。


私自身はいまだ試乗する機会はありませんが、各社ともカービング化とショート化は行き着くところまで行ってしまい、かなり煮詰まった感があります。
「これ以上サイドカーブはきつく出来ない」「これ以上長さを短くは出来ない」という部分が経験的な検証を受け、既に次の段階に移っています。
そうなったとき、スキーの開発の焦点になっているのは、板の「しなり具合と戻り具合」をどんなセッティングにするかという点です。
「しっかり感・固め」「しなやかさ・柔らかめ」などといった味付けが技術レベル別、用途別になされることでしょう。
結局、カービング以前の分類項目がまたクローズアップされるというわけです。


ただ昔と大きく異なるのは、その性能実現の手段としてスキー板とブーツの間に存在するビンディングとプレートが大きな役割を果たしているという点です。
板がサンドイッチの平板か、キャップ構造なのかという違いもありますが、インターフェイスであるビンディングとプレートの方がスキーの性質を大きく左右しているものが増えるでしょう。
これらはデザイン的にも機能の違いをアピールしやすいですから各社様々な形状・機能の商品を発表しているのです。


ところが、この流れが進むと板とプレート・ビンディングの専用化・セット化傾向が強くなり組み合わせの選択肢が本当に狭くなります。
サロモンやアトミックの板に無理やりマーカーやチロリアのビンディングをつけている人をたまに見かけて、「そこまでやらなくても…」と思うことはあります。
ですが、あまりに組み合わせが決まりすぎてしまうのもちょっと面白くないと思います。
信者の皆様はどうお考えでしょうか。


もちろん、我らがブリザードは選択することが可能です。

久々に説教いたします。
トリノオリンピックに向けて各国有力選手のマテリアル変更情報が多々出回っています。
今回はかなり派手というか、大きく使用メーカーが入れ替わるケースが報道されています。
トップレーシングの世界のみならず、基礎の分野でも物議をかもしてしまうようなマテリアル変更の話が出ています。


よく、「○○社のマテリアルがテストの結果、好感触であった。」などとインタビュー記事が出ていたりしますが、それが大事ではあるものの、それが全てではありません。
むしろ、その選手にいかに合わせられるか、トレーニング環境をどこまで提供出来るのか?はたまた同一社内でどこまで優先順位が高くなるのか?というところが交渉を大きく左右しているものと思われます。
仮に同程度の性能を持つマテリアルを複数のメーカーが提供できるとした場合、まず第一に自分の世話を焼いてくれるメーカーの方が良いに決まっています。
実際、サービスマンごと移籍するケースも昔からありました。
レーシングの世界だけでなく、日本国内においては基礎スキーのトップ選手に関しても同様な現象が見られるようになりました。


我々アマチュアはそのようなしがらみや影響はあまりありませんので、トップスキーヤーの情報に余り振り回されることなく、真に必要な一台を選びましょう。
その際には選択肢の一つにブリザードを加えてみてください。

つい先日、某I社のスキー展示会を見に行きました。
6月という時期の展示会で見るべきはやはりブーツでありましょう。
ザウス亡き今、スキー板はシーズン中に試乗しておく必要がありますし、そのほかのグッズは後ででも見られるからです。


さて、ブーツを見て回った印象は「黒犬靴風大増殖」です。
テクニカ、ヘッド、アトミックなど「あからさま」にそれ風のモデルが発表されています。
テクニカにいたっては、ノルディカを統合したとたんに、ディアブロの最高機種でドーベルマンのインナーをそのまま使っています。(シェル形状は異なります)
レグザムもDATAのシリーズはナロー(幅狭)ラスト(足型)という点で、これらと同じ考え方のつくりです。
私の個人的な感想はやはりノルディカ・ドーベルマンに一日の長があると感じました。


ともあれ、ナローラストがブーツのトップモデルの世界で明らかなトレンドになっているのは間違いありません。
ただし「だん広」のスキーヤーも当然いるわけで、そちらには数%幅を広げたシェルを用意するといったラインナップが組まれています。
こういった構成もまたトレンドといえましょう。
以前は、トップ機種といえども足幅の設定が一種類のメーカーが多かったことを考えればこれは歓迎すべき傾向かもしれません。


これから何年かは、足幅の合うブーツ選び(シェル選び)をすることになるでしょう。
皆様もあまりイメージだけで決めないで、この季節に各社が開発した様々なシェルを試してみることをおすすめします。

久々に説教いたします。
ここのところ連日オリンピックのメダル獲得のニュースで日本中盛り上がっています。
前半が終了した時点で「いつもの」オリンピック以上の結果といえましょう。
25日、野球の銅メダルでメダル総数が史上最高となりました。


大本命が敗退するという番狂わせもごく一部にありましたが、ほとんどが期待通りか期待以上の結果を出しています。
この「番狂わせ」が少なかったのが柔道であり、「期待以上」のメダルがあったのが競泳でありましょう。


そして、早くも「勝因」の分析が語られ始めています。
曰く、「重点種目に多額の強化資金が割り当てられ活用された」「科学的な分析、トレーニングが取り入れられてきた」など。
また、選手とそれを育てた指導者との関係が語られています。


しかし、私が申し上げたいのは「体格」と「パワー」で押してくる欧米人に対して、「知恵(工夫)」と「技」で上回ったのではないかと言うことなのです。
柔道はもともとそのような競技特性ですが、競泳や体操は上記のような努力が花開いたのではないでしょうか。


スキー競技も「知恵(工夫)」と「技」でいつか世界の頂点を極められるのではないかと思うのですがどうでしょうか?
圧倒的に強くなるには、日本独自の「秘術」くらいは持っていないと出来ないと思われます。
現在の日本チームのエースである佐々木明でさえも欧米人と同じやり方の範囲であるような気がしてならないのです。


困ったことに、スキーのマテリアルはほとんどヨーロッパのメーカーに押さえられています。
佐々木は幸いなことにサロモンでもエースクラスの待遇だといわれますが、コステリッチが復帰してくればどうなるかわかりません。
やはり日本人選手のために日本のメーカーが作らないといけないのでしょうか。
マラソンで金メダルを取った野口みずき選手がアシックスのスペシャルシューズを使っていたという話を聞くとそんなことを考えてしまうのです。

アテネオリンピックの閉幕直後、スキーウエアでその名を知られたP社が産業再生機構に支援を要請したということで業界内がバタバタしています。
現在進行中の状況もありますので内情に関するコメントは差し控えさせていただきます。
皆様もご存知の通り、昔のように企業倒産に関してゼロか100かという時代ではありませんので、今回の件に関してもあくまで事業を存続するための措置と理解しています。
再生の概要については産業再生機構のHPで公表されていますのでそちらを見ていただきたいとおもいます。
一言でいえば、ウインタースポーツ市場が大幅に縮小していったのに、売上げ規模を上回る商品生産を行い、人員も過剰なままでいたため危機に陥った。ということです。
P社も既に人員の削減は行っており、身軽になってからの再出発となります。
ただし人数が大幅に減ると従来のやり方では業務をまわすことは困難になってくるでしょう。
P社の合理化に関しては開発部門も例外ではありませんが、メーカーとしての開発力がどうなっていくのか非常に興味深いところです。
自動車でも電気製品でもそうでしょうが、業界でトップのメーカーというとやはり開発力もトップクラスであり、その維持が必要です。


かつてはメーカーごとにウエアでも仕上がりに「味」の違いがありました。
ハンガーにかけたとき、その佇まい(?)が違って見えたものです。
ここ数年でその「味」もだいぶ薄まってしまいました。
私自身もユーザーから「どのメーカーも同じように見える」といわれたことがあります。
金額・数字で管理されていくとそうなりがちだとは思いますが、P社にはその「味」を出していってもらいたいのです。

NHKにプロジェクトXという人気番組があります。
私も結構好きな番組でありまして、クライマックスで「見事、やり遂げた」などと田口トモロヲ氏のナレーションが入るとグッとこみ上げたりするわけです。
しかし、現在の業界を考えるとただ感動しているばわけにもいかないと思ってしまいます。


プロジェクトXで取り上げるケースのほとんどは「不足の時代」が基本ですから「何を作るか」、または「大変なものをいかにしてやり遂げるか」が問題であったのです。
「作ったもの」、「やり遂げたもの」は高確率で周囲に大きなインパクトを与えていたのです。
しかしながらそのような状況は1990年頃に終わりました。
現在は「作りあげた」、「やり遂げた」というだけでは成功は約束されません。
苦労して作り上げたものの、景気が冷え込んでいてほとんど売れないという話はそこらじゅうに転がっています。


スキーの世界も単に優れた製品を作るだけでは成功できなくなりました。
少しでもスポーツビジネスに興味がある人ならば、サロモンがアディダスの傘下であり、アトミックはフィンランドのスント(コンパス、時計等の精密機器メーカー)の傘下でウイルソンなどとグループ企業であることはご承知の事と思います。
さらに、K2がノルディカ、マーカー、テクニカ、フォルクルを傘下におさめるというニュースを耳にした方も多いことでしょう。
ウインタースポーツだけの規模では安定した経営が出来ないという判断が世界中でなされているのです。
スポーツ業界以外でも、業界を押さえるために企業がその規模を大きくしていくというのは世界的な流れと言えるでしょう。
利潤を追求するのは民間企業においては存在のための大前提でしょうが、それを偏重していくような危機感を感じませんか?

10月23日に発生した新潟中越地震はあらためて自然が牙をむいたときに人間がいかに無力であるかを示しました。
スキー場が最も集中している地域とは震源が若干離れていますが、人々のイメージに「新潟は地震がある」と刷り込まれる可能性はあります。
スキーに限らず、経済的な打撃は大変大きなものがあるでしょう。


地震以外にも、今年は大変な数の台風が日本を襲いました。
まるで日本全体が亜熱帯になったかのような異常さです。まさに温暖化です。
これで冬になって山に雪がちゃんと降るかはそのときになってみないとわからないでしょうが、ここ30年ほどの私の記憶では確実に降雪量は減少しています。
掘っても掘っても家が雪に埋まってウンザリという状況はここ数年ありません。
ずっとその土地に住んでいる人にとっては楽かもしれませんが、この傾向が進んだらスキー場自体が成り立たなくなる恐れがあると指摘されてきています。
人口雪も作れないほど温暖化してしまえば人間の手では対抗し得なくなるでしょう。
文明や技術が進んでもいまだ自然の前に人間は無力なのです。


最終的にはスキーというスポーツが非常に特殊なものになり、まさに金持ちにだけ許されたものになってしまうかもしれません。
また、冬季オリンピックが成り立たなくなる可能性も否定できなくなるのではないでしょうか。
悲観的な話になりますが、もはやこの流れには逆らえないのかもしれません。
であるならば、「できるうちにたくさんスキーをやりましょう」と言う人が出てきても良さそうに思うのは私だけでしょうか。

前の10話へ インデックスへ 次の10話へ

戻る
HOMEへもどる