説教の記録(100回記念)


日付・タイトルをクリックすると本文に飛びます

100:2005年5月4日「100回記念:根本から考える1」

101:2005年5月12日「100回記念:根本から考える2」

102:2005年5月18日「100回記念:根本から考える3」

103:2005年5月26日「100回記念:根本から考える:補足」

前の9話へ インデックスへ 次の7話へ

最速のライン

100回記念の説教をいたします。


スキーがカービングになって何が変わったでしょう?
いろいろなことを言う人がいます。
代表的な話は「内足を使うようになった」というものでしょう。
「内足荷重」とか「内足主導」とか細かい表現で混乱しているケースも見受けられます。
こうした話はほとんどが「カービングになった結果、今はこのように滑ると良い」というものです。
あまりその前提条件を述べる場面は見かけません。


さて、レーシングのスキーで思考実験をしてみましょう。
最速のラインはどんなラインでしょうか?
これを単に最短距離と考えると、ポールとポールを直線で結ぶジグザグのラインが最速になります。(図1→)
しかし、これでは瞬間的に速度のロスもなく方向を変えなければなりません。
そんなことが出来るのかといわれれば、当然実際には不可能です。

ターン弧の大小そうなると次に考えるのは、小さな半径の弧で速度のロスなくターンを行うということです。
速度のロスが同程度ならば、ターン弧の半径が小さい方が速くなります。
つまりサイドカーブがきつい方が速くなる可能性が高まります。(図2→左側より右側が早い)
ここでカービングスキーを使う理由が明確になるわけです。
そこからどう滑るかを考えると混乱しなくてすむのです。


続きは101回目で


クラシックシェイプのスキーでのターン

前回、100回目の説教からの続きです。


レースで早く滑ろうとする場合、速度のロスが同じならばターン弧が小さいほうが速く、それを実現するにはサイドカーブがきつい方が可能性が高まると申し上げました。
ただし、これはターンの場面だけしか考えていません。
スキーを滑っている実際の場面では100%ターンということはあまりありません。
ターンとターンの間の直線区間に関しては真っ直ぐに滑るのでサイドカーブのゆるい板のほうが向いています。
カービング以前のスキーというのは、この直線を滑る性能を第一に考えていました。
そのため、スラロームでも2M以上の長さだったりしたのです。
ゲレンデ一般用のスキーも含めて滑走速度が高く想定されているモデルほどサイズが長かったのです。
ターンするのは人間の技術で何とかするから直線をいかに安定して早く滑るかが重要だと考えていたわけです。
今でも高速系の種目にサイドカーブがゆるく、長い板を使うのは基本的にはこのような考え方に基づいています。

ショートカービングのターン一方、技術系の種目では直線区間が短いのでその部分の性能は軽視してもターン部分の性能を極端に高めればタイムが速くなるということが発見されました。
特にスラローム競技の場面では直線部分でのスキー板は半分、空中を飛んでいるような状態ですので、極端に短いサイズのカービングスキーを使うわけです。


また、ゲレンデでレースほどの速度を出さない用途については、レースのように直線部分をとる必要も無いためにターン部分の性能に重点を置けば良いと考えられます。
このためRのきついショートカービングスキーが使われるわけです。


要するにターンの部分か直線の部分かどちらを重視するかでスキーの形状が変わっていくということです。


クラシックシェイプのスキーでの加重

さらに前回からの続きです。


スラロームなど技術系種目のレースでは早く滑るために直線区間よりもターン部分を重視してカービングスキーを使い出したと申し上げました。
前回までは1本のライン、1本のスキーをモデルにしていましたが、今回はもっと現実的に二本のスキーを使う場面を想定して考えて見ましょう。
(といっても実際の現象よりもかなり単純化した話にしてあります)


サイドカーブのゆるい板で小さく回ろうとすると、まずある程度板を次の方向に向けた上で、強く加重して板を大きくしならせる必要があります。
外足加重が強くなる原因がここにあります。
スキーヤーの体重は一定ですから大きくしならせるためには一方の側に集中して荷重するわけです。
外足:内足の比率が例えば8:2から9:1程度とか、場合によっては10:0というような状態になるのです。

ショートカービングの加重サイドカーブのきつい板の場合は板をしならせる必要は少なくなりますので、外足:内足の加重比率で言えば6:4から7:3程度のイメージでしょう。
さらに速い速度で小さい弧を描くために短時間に強い遠心力が働くため、身体に一本軸を作り大きく内側に傾ける必要があります。
自然と外足だけでなく内足も雪面にコンタクトしてきます。


なぜカービングスキーを使うのか?というところから、どんな理由でその運動を行うかと考えた結果、初めて内足の話が出てくるのです。
こうした流れを理解した上で実際に滑れば、迷うこともなく応用も効くスキーヤーになれると思いますがいかがでしょうか。


成功したターンの現実的なライン

100回記念の説教では根本からシンプルに考える事を目的としておりましたので、滑走ラインをかなり意図的に理想化して表現していました。


実際には右図のようなラインが成功例のターンとしては普通だと思います。
レーシング経験者ならご承知のことだと思いますが、ターンはその後半でポール脇を通過するようなタイミングで行います。
斜度が大きくなればなるほど落下速度が速くなるためゲートよりも上からターンを始める必要があります。
これは斜面上を落下していく状態の中で、感覚的にターンを処理するのに必要なゆとりという解釈も出来ます。


また、本当に直線で滑る(斜滑降)部分は厳密に言えばほとんどありません。
ターン後半から終了時期に直線に近い状態のラインになるのです。
その部分でいかにスピードに乗っているかが競技であれば好タイム、基礎であれば迫力のある滑りに結びついていくということです。
そういう意味では競技も基礎も共通性があるといえるでしょう

失敗したターンのライン

対して、ゲート間近まで突っ込んでしまってポール間際までターン開始が遅れた場合を示します。


これはいわゆる失敗ターンとも言うべき状況で、ゲート通過後もポールセットの外側にはみ出していってしまいます。
その結果、スピードの乗ったターン後半できつく曲がる必要が出てきて抵抗が増大し減速してしまうわけです。
(ずれやすくなる)
競技であればタイムロス、基礎であればキレがなく迫力に欠けた滑りになります。
ただし、カービングスキーを使うとこのようにターン後半に小さな弧を描いたとしてもサイドカーブでずれずに曲がりきり減速をより小さく抑えることが出来ます。
これが、カービングで技術が補完されるという現象です。

緩斜面でのライン

緩斜面やセットの振り幅が小さいときは上のような失敗したラインが出にくいのですが、やはり早めにターンを始める必要性はあまり変わりません。
攻める滑りをするならばむしろ全体のラインをポールセット幅ぎりぎりにし、できるだけ縦長にしていくのです。


縦長のラインということは、「フォールラインに近い」「直滑降に近い」ということで、よりすんなり下に向かって落ちていく状態が作り出されていくのです。
実はスキーというのは直滑降の状態が一番シンプルで安定しています。
合理的な滑りというのは突き詰めると直滑降の状態に近づくことでもあるのです。
これは昔のスキーもカービングスキーも変わりません。

前の9話へ インデックスへ 次の7話へ

トップへ戻る
HOMEへもどる