説教の記録(171-180)


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171:2008年1月8日「スター選手」

172:2008年1月27日「使用者の責任」

173:2008年3月10日「上村愛子WC総合優勝」

174:2008年3月31日「1点差での勝利」

175:2008年4月4日「スキー技術のDVD」

176:2008年4月17日「製品の均質化」

177:2008年5月14日「コブ斜面の練習」

178:2008年5月24日「北京五輪を前にして〜スキーのビジネスと伝統」

179:2008年6月10日「競泳の水着問題」

180:2008年7月2日「CO2削減に対する貢献とは」

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新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。


毎年年末には一年を振り返り、正月には今年期待の○○という内容でTV番組が流れます。
スポーツもそういった番組があるわけですが、注目の若手選手としてはやはり「はにかみ王子」こと石川選手が大々的に取り上げられていました。
アイドル的な取り上げ方ですが、ここ何年か女性アスリートばかり注目されていた状況を思えば、バランスが取れてきたと言えるでしょう。
男子にもスター選手が出現しているのは良い傾向でしょうが、種目で見るとゴルフ、野球、サッカーなどやはりいずれもプロの世界が確立している種目なのです。
当然スキーはそのようなプロの世界が確立はしていません。将来的にも厳しいでしょう。
こういった種目は世界レベルでトップクラスの成績を収める選手が現れ、世間での話題性を上げるしかないように思います。
スケート競技(フィギュア、スピードともに)はそういった方向で選手に注目が集まった種目でしょう。
注目が集まり、多くの人たちが「見たい!」と思えばそこにビジネスが成立する可能性が高まります。
そうなれば、選手の活動にも資金が回るという好循環が生まれるはずなのです。
今年以降、そのような環境がスキーに生まれることを祈っています。

私はスポーツ関係のメーカーにおりますが、お客様からの問い合わせで特に目立つ傾向があります。
5〜10年以上愛用していた(あるいは5〜10年ぶりに使おうとした)製品に不具合が生じているので何とかして欲しいという話です。
扱うものはほとんどウ工アですが、やはりこの時期はスキーウエアの事例が多いと言えましょう。
実際、ゲレンデでも過去20年位のウエアは一通り見られるように思います。


スキー関係のビジネスで最も売上が高かったのは確か15年ほど前のことだったと記憶しています。
当時、購入した人々はその頃、可処分所得も多い若者だったことでしょう。
その後は結婚などで一時スキーから離れ、子供もゲレンデデビューできるようになった今、また戻ってきていると業界では見ています。
そのときに「久々に再会した」ウエアなりグッズを使ったところ不具合があり、「何とかしてくれ」と電話やメールをいただくことが多いようです。(私の職場ではウエアが多い)


製品を気に入っていただき、長く愛用していただけるのは実にありがたいことではあります。
けれどもその寿命は永遠ではありません。
使用日数(時間)にもよりますが、5年も経過すれば製造直後の性能は保たれていないと見るべきでしょう。
ウ工アであっても素材の剥離、変色などの起こることが多くなります。
板・ブーツならばフレックスなどの「へたり」、各部分の破損の可能性が出てくるものと思うべきです。
モノを大切にすることは大切なことであり、それを否定するものではありません。
しかし、使う上でそのモノがどういった状態か、使用者はよく把握する必要があるでしょう。
製造者の責任や不祥事が大々的に報道され、何かあったら「とりあえずクレーム」というのが今時の流れでしょうが、「使用者責任」というものが実は存在しているのです。

モーグルのワールドカップで上村愛子選手がシーズン総合優勝を決めたという報道がありました。
日本人選手としてはもちろん初めての快挙です。

以前指摘しましたが、モーグルという種目はこぶ斜面を上手く滑ること、難易度の高いエアを決めること、タイムが早いことなどあまりに異質な要素が混在しています。
これはスポーツ種目としては他に例のない内容で、悪く言えば評価の軸が多すぎて純粋さにかける部分があります。
これは見方を変えれば、どの要素を重視するかという分析も勝つためには重要になってくるということです。
トリノ五輪の時は「最高難度のエアを武器に」という前評判でしたが、ターン技術で他選手に差をつけられメダルを逃してしまいました。

TV報道の短い映像でしたが、今回の上村選手はエアの技は他の選手と遜色ないレベル、ターンで大きくリードするという場面が見られました。
過去の反省が生かされ、大きな成果につながったわけで、これは素直に評価したいと思います。
しかし、トリノ五輪から2シーズンかかっての結果であり、バンクーバーまではさらに2シーズンあります。
これからの2シーズン、どう変化していくかを分析し対応していくかが正念場でありましょう。

ワールドカップスキー最終戦のスーパーGで種目別タイトルを決めたのはH・ライヒェルトでした。
最終戦前はD・キーシュが99ポイント差で首位に立っており、「普通に」滑っていけばタイトル確実という状況でした。
これをひっくり返すにはキーシュがノーポイントでなおかつライヒェルトが1位(100ポイント)をとるしかなかったわけですが、これが実際に起こってしまったわけです。
ライヒェルト自身も含めて皆驚いていたそうです。実に劇的な結末といえましょう。


また今年度の技術選、男子でも1点差で勝敗が決まりました。
最終日、最終種目で順位が入れ替わったのです。
実に劇的な結末であったということになっていますが、現地で見ていた人からは疑問を感じるという話を聞いたりします。
同じように聞こえる「1点差での逆転勝利」ですが、タイムレースには疑問を差し挟む余地がないのに対し、採点競技ではどうしてもそういった話が出てきてしまうものです。
技術選もリザルトが公開されていますが、各種目の合計点だけです。
ボクシングでも行われたように採点内容をもっと細かく公開すればわかりやすくなるはずです。
決勝だけでもジャッジ個々の点数を公開すれば「誰がどう採点したか」が明確になり、意図的な採点に対しても抑止力になると思います。

以前の説教でスキー雑誌にDVDがついていることが多くなったという話をしました。
今回はもうひとつの視点からお話ししてみましょう。


スキー技術に関する映像であれば、現在そのほぼ全ては「現在の最新技術」を紹介するものです。
もちろん最新情報を提供するのはメディアの重要な役割です。
しかしながら、最新の技術に特徴的に見られる現象というのは樹木に例えるならば基本技術という幹から伸びた枝の最先端の部分ともいうべきものです。
表面的に見えて真似しやすい技術に心奪われるスキーヤーはいつの時代も沢山いるものです。
一方で多くの指導者は、幹の部分をいかに教えるかというところに心を砕いています。


そこで、私のアイデアですが、過去から現在に至る一流の滑りを紹介してその共通点を抽出して見せたらどうかというものです。
色々権利関係がからんで実現は簡単ではないと思いますが、ぜひ見てみたいものです。
時代を超えて共通に見られるものが技術の幹とも言うべきものになるでしょう。
例えば大回転競技で、ステンマルク〜グリュ二ゲン〜H・マイヤー〜スビンダルとか
回転では順手・逆手にとらわれないようひたすら脚ばかりの映像をつくるとか…
基礎スキーでもコブ斜面などメーター時代の滑りから何か得るものがあるやもしれません。


手間がかかりそうな割に一般受け(?)しそうもないので商売ベースではどうかと思いますが、良いものができれば長期間販売できる定番ソフトになるかもしれません。
あるいは、そのような映像ソフトはスキー連盟あたりが企画するべきものかもしれません。

スキーの板やウエアの宣伝文句で、「独自の素材を使って」とか、「独自の構造で云々」などというのを見かけます。
ウエアに関して言えば、十数年前からいわゆるナショナルブランドと呼ばれるメーカーの製品には差がなくなってきました。
また、スキー(板)メーカーの人が「最近どこも同じになってきたよね」と話していたという噂も聞いたことがあります。
もちろん市場が縮小してきて沢山のバリエーションの存在を許さない環境になってきたこともあります。
しかし、ここではもっと別の角度から考えてみましょう。


ある製品を作ろうとするとき、スキー関連のメーカーは素材は作りません。
素材のメーカーから買ってきます。
「独自の」「新しい」素材というのは、スキー関連のメーカーからのリクエストがあった場合でも実際には素材メーカーが開発します。
また、ウエアで近年見られる特殊な裁断・縫製方法(防水・軽量化のためといわれるものが多い)は縫製関係の機械メーカーが開発します。
板やブーツのメーカーも似たような事情があるでしょう。


これらスキー関係のメーカーが打ちだす新機軸の多くは、これら関連の企業が開発したものをチョイス、コーディネートしたものといえます。
ナショナルブランドであるか否かは最新の開発成果を常にチョイスできるかということとほぼ同義なのです。
スキー関係のメーカーとして一流であろうとするならば、そういった最新の開発成果をコストをかけてでも導入するのが必要条件ともいえるでしょう。
しかし近年は、最先端で良さそうなものは皆一致して選ぶため、その結果製品の均質化がすすんでしまうのです。
背後には情報のグローバル化、均質化があります。

GW期間中、私は訳あって主にゲレンデを眺める時間が多かったのですが、そこで発見したことをお話しましょう。
朝一番はピステンがゲレンデをまっ平らにならしていますが、時間が経つにつれて次第に凹凸が発生します。
よ〜く見るとゲレンデの端の辺りを同じペースで「掘りこんで」いる人がいるのです。
そして、キレイに出来上がったコブを一生懸命に滑る姿を見ました。


しかし、です。
滑っているスキーヤーを見ると、ほぼ全員がコブ斜面の溝の中をトレースしていました。
GW後、かぐらスキー場ではコブの出来方が「縦長」か「横長」かで滑るラインを選ぶスキーヤーも目撃しました。
つまり「自分の滑りたいコブ斜面」というものを作ったり、選んだりして滑っているのです。
私はこの非常に限定されたシチュエーションを好んで滑る人達を見て違和感を感じました。


元々多くのスキーヤーが意図せずに作り出すイレギュラーなシチュエーションや自然に発生する凹凸がコブ斜面であり、そこに対応できるスキーヤーが上級者として認められるはずです。
コブ斜面の滑り方も凸→凸(トップをつなげていく)もあれば、凹→凹(ミゾからミゾ)もあり、凸→凹(トップからミゾに滑り込む)など色々あるはずです。
…なのですが、ひたすらミゾばかりつなごうとしているスキーヤーばかりでした。
型にはまらない自然を相手にするのがスキーの基本的な価値観だと思いますが、どうも型にはまった滑り方を一生懸命練習している人が多いようです。

北京五輪を前にして、四川大地震やチベット問題、食品安全に関する問題など中国に関する話題が尽きません。
中国という国に対して「いかがなものか」という反応も多く聞かれます。
五輪開催で良くも悪くも注目が集まるということだと解釈しています。


実際問題、政治的に気に入らないといったところで、いきなり国として断交したり戦争したりはできないでしょう。
経済的な結びつきが深まりすぎてもはや切っても切れないところまできているからです。
同じ国の中に中国の政治体制を批判する人もいれば、中国抜きではビジネスが成り立たない人もいるのですが、後者の方が圧倒的に多いわけです。
経済が政治を上回っているのが現代という時代でしょう。


スキービジネスでも結びつきは深くなっています。
日本人の来場増加は見込めないと判断したスキー場が中国からお客を誘致しています。(他の国も増えていますが)
ウエアの工場はほとんど中国で、日本に来た中国人スキー客が日本ブランドのウエアが中国製だということに落胆していたのを私も目撃しました。
また、スキー板の普及品が中国で作られていることも知られてきています。(量販店の非常に安価なセットスキーなど)
さらに、遠くヨーロッパの海外合宿を企画しても為替の高いユーロ圏ではあまりに費用がかさんでしまうため、中国のスキー場を利用するケースが増えているという話も聞きます。
最近ではウエアメーカーの某P社が中国企業に買い取られてちょっとニュースに出たこともありました。


スポーツビジネスの中でも、ウインター関係は利益が出にくいといわれます。
理由は簡単で、年中出来ない、積雪地でしか出来ない、金がかかるため客層が限られる…などなどでスケールメリットが出せないのです。
このように効率が悪い上に「こだわる」客層が多く、製品を合理化したくても限度があるというのも特徴です。
一部スポーツメーカーは富裕層が増える中国市場に活路を見出そうとしているようですが、ウインタースポーツの市場としてはまだまだ時間がかかるのではないかと私は思います。
近代アルペンスキーは20世紀初頭に成立したようですが、日本にもほとんどタイムラグがなくスキーが導入されています。(一般にレルヒ少佐が高田でスキーを伝えたのが1911年で最初とされる)
戦前から一部の人々のあいだではありましたが、スキーが認知され実行されてきたのです。
そういった下地があったため、戦後日本でレジャー・競技としてのスキーが盛んになっていったわけです。
日本にはスキーに関しては100年近い歴史がありますが、中国にはありません。
制約の多いスポーツだからこそ、十分人々に浸透する時間が必要なのではないかと考えています。

「世界記録を連発する」S社水着をめぐって競泳界がゆれています。
水連契約の3社がオリンピック向け改良モデルを発表した直後の試合ではS社着用で日本記録が連発、北島選手にいたっては世界記録を更新しました。
世界記録後にS社水着を国内で販売するG社の株価は上がり、契約3社は下がったなどという現象まで起きています。
(競泳の製品だけで企業全体の業績が大きく左右されるとも思いませんが…全く笑い話のような出来事です)
株価の話は余談ですが、この状況からするとオリンピックでメダル争いをするならばS社でなければ勝負にならないのは明白でありましょう。
現在のスキーで例えるなら、カービングでない板でSLのレースに出るようなものといったところでしょうか。
しかし、競泳のように道具に左右される要素が極端に低い競技で大きな差が出るというのは珍しいことだと思います。


これらはイコールコンディション対テクノロジーとも言うべき問題で、アスリート自身の能力で勝敗を決めるべきという建前(!)に対して使用マテリアルを製作するメーカーは製品の優位性をアピールしたいわけです。
すでに出発点からして相容れないものが存在しています。
そうは言いながら、今回の水着ほど差がはっきりしていなければ両者共存可能です。
選手は(自分の実力で勝ったと思っても)「この製品は素晴らしい」と言えますし、メーカーも(金を積んで使ってもらったのだとしても)「トップの力を持った選手がわが社の製品を選んだ」と言えるわけです。
この競泳における騒動は、製品側であまりに差がついてしまったため改めてスポーツビジネスの構造が浮き彫りになってしまった事件といえるでしょう。


ちなみに大阪の素材メーカーがより抵抗を軽減したとする素材の提供を申し出ていますが、私は素材だけの問題ではないだろうと推測しています。
第一、各社オリンピックモデルとして素材の開発・仕込みは進んでいるでしょうからその素材を全面的に変更するなど経営的にはとんでもないということになるでしょう。(もっともメダリストが全く使用しないリスクもありますが)
現在スポーツウエアの技術ではサポート機能で人体のパフォーマンスを最大限引き出すのが最先端の要素になっていると思います。
主にアンダーウエアで実用化されていますが、この流れを極端に水着に取り入れたのがS社であろうと解釈しています。
S社以外のメーカーはこういった部分で完全に遅れを取ってしまった形になっているのです。


水泳連盟はジャパンオープン前、契約3社に水着改善要請をしました。
水着の試作はそれにかかりっきりになれば数日間で「縫い上げる」ところまでは出来るでしょう。
ただ、素材を変え構造もマイナーチェンジする範囲なら可能ということです。
残念ながら、サポート機能まで一から組み立て仕上げるとすればあまりに時間が少なく、本気でメダルを狙うならS社の選択が前提条件になっていると思います。

言うまでもなく、通常スキーは雪がなければ出来ません。
近年大幅な雪不足のため、多くのスキー場が満足に営業できず打撃を受けてきました。
恐らく地球全体で進行している温暖化がこういった現象に影響しているのでしょう。
これは気温の統計からはっきりと見られる傾向で、今後数十年の間に多くのスキー場が滑走不能になると言われています。


地球温暖化の原因としては人間が活動することで排出されるCO2(二酸化炭素)が大きく影響しているとして、この排出量を削減しなければならないといわれています。
CO2削減は、排出量を金で取引してでもすべきである、ということが今の「流行」ともいえる状況です。
この辺は「環境問題」をネタに新たな金儲けをたくらむ企業の影がちらついて、ストレートに歓迎していいのか困惑する部分ですが、人間が無制限にCO2を増やし続けて良いわけもなくエネルギーの効率化という面で充分メリットがあると私は考えています。
ただし、排出量取引ばかりが盛り上がることなく、実際に削減する技術に投資されることが前提ですが。


こういった状況の中で、SAJのWEBサイトなど見てみるとチームマイナス6%のバナーがあったりするわけです。
雪がなくなってしまえば、スキーもできず連盟どころではなくなりますから当然ですね。
しかし、今のところスキー関係者がCO2削減に関してものすごくインパクトのある活動を実施した印象がありません。
例えば、
・関係の建物は全て太陽電池で電力をまかなう
・関係の車両は全てエコカーにする(電気・燃料電池・ハイブリッドなど)
・関係者はエコバッグ(SAJロゴ入りでもなんでもいい)を支給されていて、買い物ではポリ袋を全く使わない
・自動車メーカーに対して、雪道に強いエコカーの開発を働きかける
・スキー関連の製品に関して製造することで発生するCO2を削減する、またその削減目標を定める
考えればまだまだあるでしょう。


実際には経済的に制約があってそんな大規模な事は出来ないといわれるでしょうが、やろうとする気配すら感じられません。
スキー関係者に限りませんが、結局削減の方法論に関してはエアコンの温度設定を何℃にとか、家でこまめに電源を切りましょうとかチマチマした精神論一歩手前の話で終わっていないでしょうか。
この国全体のお金の使い方を変えていく程の勢いがなければ、効果もたかが知れていると思います。
手元に金があったとしても雪がなければスキーはできなくなるのです。

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