説教の記録(191-200)


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191:2009年3月8日「ゴールでの執念」

192:2009年4月16日「アルペンだけが結果を出せていない?」

193:2009年5月1日「スポーツにおける型」

194:2009年6月7日「連盟の役割」

195:2009年6月26日「スキー界特有の問題」

196:2009年7月15日「本当に大変なのです」

197:2009年7月30日「競技団体の資金源」

198:2009年9月1日「トニーザイラー死去」

199:2010年1月7日「2010年のご挨拶」

200:2010年2月7日「アルペン競技を大切にしてほしい」

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先日、ノルディック世界選手権においてコンバインド種目で日本が久々に金メダルを獲得しました。
かつてジャンプで大幅リードを奪い、距離で逃げ切るというパターンから距離でも勝負できるように変化できたのが勝因であるといわれています。
まあそれは、見ればわかる範囲のことでしょうが…、ゴール寸前のTVニュース映像を見て私はハッとしました。
最終段階で順位の決まる最後の瞬間、第2位のドイツ選手の足がゴールラインに向かってにゅっと伸びていたのです。
それはもう、勝利への執念があからさまに見えた瞬間でもありました。
ルール上、選手の足がゴールラインの光電管を切った瞬間が順位として記録されることは、アルペンでもノルディックでもルールとなっています。
その中で最善を尽くすことができるのが勝者となる…そんなシンプルな原理原則を再認識させてくれたような気がしています。
それが認識されていれば、一般レベルのトレーニングにおいてもスタート直後やゴール直前ははもっとシビアな練習が行われるものと思っています。

前回の説教(だいぶ間があいてしまいましたが)でノルディック複合が国際舞台で久々に勝利をおさめた話をいたしました。
純ジャンプでも大ベテランの岡部選手がこれまた久々に勝利をおさめました。(最年長優勝という記録つきです)
そして、日本国内で行われた世界選手権の舞台でモーグルの上村選手が二冠という記録を残しました。
スキー競技は大きく、アルペン・ノルディック・フリースタイルに分けられますが、ノルディックとフリースタイルは今期「結果」と言えるものを残しています。
アルペンだけは残念ながらそういったものはありません。
ネット上では色々なご意見(!)が飛び交っていますが、アルペン競技で浮き沈みがあるのは「ある程度」は仕方がないことです。が、五輪を翌年に控えて現在の沈みっぷりに危機感を抱いてのご意見なのでしょう。


トリノ五輪のあった2006年には皆川選手がメダル直前の4位、湯浅選手が一桁7位という成績を残しています。佐々木選手も五輪では結果を残していませんが、その後のWCで も二位に入っている通り、世界の第一線で戦えるレベルにいました。
その時の記憶からすれば、「ご意見」を述べたくなるのもよくわかります。
しかし、その背景にあるのは何なのでしょうか?


経済の下落傾向に伴い、スキーメーカーの整理統合が進んでいます。
五輪などのビッグイベントで勝利するためルール改正とマテリアル開発やテクニック開発はすべてセットで動いていますが、そのコンビネーションはヨーロッパの国々中心で動いていて、日本のような 「辺境」の国は組み込まれにくいのです。
歴史で過去に存在したブロック経済のような展開がスキーの技術開発においても発生していると考えるべきでしょう。
国際協調してそういった情報を取り入れていくか、訣別して独自で対抗していくか選択する時代と考えるのは、過去の歴史にとらわれすぎた発想でありましょうか?

イチロー選手が安打数記録を更新しました。大変な記録を次々とクリアしていくのは見ていても気持ちの良いものです。
アメリカでもイチローのモノマネがあるように、彼の打席での動作は完全に「型」ができています。
私が思い出すのは相撲の仕切りです。現在の朝青龍、かつての千代の富士などは常に一定の仕切り動作から立合いに入っていきます。
実際のゲームや勝負では臨機応変な動作で一流の結果を出している選手たちはその場面に入る段階で必ず自分のペースで準備動作を行っているのです。


スキーのトップ選手ではM.プランガーのスタート前に気合を入れる動作などが有名(?)ですが、そういった動作を真似すればうまくいくかといえばそれは「ノー」です。
本当に大切なのは実際のゲーム時の動作をイメージできているかということでしょう。
きちんと本番の動作イメージができていることが必須で、その導入として一定の動作が準備段階で行われるのです。
我々としては、まずは本番の動作イメージを作ることに注力しましょう。
そのあとにお好みで準備動作を加えればよいのです。

先週からスキー業界は展示会・予約会シーズンに入りました。
世の中はまさに不況という社会情勢です。
伝え聞くところによると、スキー関係各社も世界的不景気の影響はかなり受けているようです。
自動車ほど強烈なものではないにせよ、比較的お金のかかるスポーツ・レジャーであるスキーも深刻な状況に陥ると思うべきでしょう。
すでにメーカーのグループ化、統廃合はかなり進んでいます。
生産拠点を集中して効率化を図ったりなどということも行なわれているようです。


一般論として今回の不況はあまりに世界的であるがゆえに、国際協調で何とか乗り切ろうとする動きが見られといいます。
経済対策もまずは「食えるかどうか」のところにいくでしょうから「遊び」の分野であるスキー業界にはなかなか恩恵が届かないことでしょう。
そうなると、業界団体やスキー連盟などがどこまで企画力を発揮して支えることができるかというのが課題になるのではないでしょうか。
個人レベルでは良いアイデアを持っている方がいらっしゃるようですので、それを活かす仕事を団体・連盟には期待したいと思います。
日本の団体や連盟はちょっと企画力に難があるように思います。

某所、某ショップの展示会に仕事で行ってきました。
そこでの某社の方の話。(某が多くてすみません)
「色々な競技団体があるけど、スキー連盟は飛びぬけて名誉職の人数が多い… そのあたりをなんとかしないと…」
小耳にはさんだ程度の話ですが、「そうだよね〜」と思った次第です。
本当に機能する人が少なく、ただ名前を連ねているだけで経費を発生させている人数がかなり多い…というわけです。


それとは別にスキー場関係のデータを語る上でよく言われることがあります。
「プレー人口が(ピーク時と比べて)ほぼ半減しているのに、スキー場の数は半減していない」
「他の産業は市場規模が半減したら供給側も半減させて対応するはずなのにスキー場だけがそうなっていない」
スキー場というのは止めたら止めたで元の状態に戻せという話になりますが、その経費負担ができずにズルズル行ってしまうことが多いと言われます。
それでも最近になってやっと閉鎖するところが出てきています。


他にも「周辺の宿泊施設などに影響が大きすぎるため簡単にやめることができない」という話もあるようです。
お客が来ないものは来ないわけですが、本当にやめてしまう前にどこまで努力したかが問われる問題でしょう。
そりゃそうでしょうという話ですが、過去の延長で「やることはやった」というのではなく「世の中一般の基準で努力したのか否か」が問われています。
スキー場というのはほとんど田舎にありますから、場合によってはその地域ローカルな感覚で全て判断されることもあるでしょう。


共通するのは、スキーだけの視点・視野だけではなく、広く世の中の一般的な基準・情報で考え判断しているかが問題なのです。
ブレイクスルーを求めるならば、その点が必要不可欠といえましょう。

競技スキーの用具規定に関してFISのトップカテゴリーの内容が日本国内のどこまで適用されるのか…
例えば、大回転R27(男子)がどこまで適用になるのかでまた今年もスッタモンダしているようです。
ブーツのかかと高も数ミリの違いでこれまたスッタモンダしてしまうようです。
これらの騒動で、スキーメーカーに利する動きという指摘も一部で(ネット上で)見受けられますが、はっきり申しあげましょう。
そんなことでメーカーは潤うことはありません。
ただ単に連盟の動きがタイムリーになっていないだけです。


トレンドはサイドカーブを大きくする方向ですので、我々はそれに対応すべく精進すればよいだけです。
意地の悪い言い方に聞こえる方もいるかもしれませんが、さっさとRの大きい新ルール適合のスキーを買って、それに合わせた技術をさっさと習得した方が良い結果が得られるでしょう。
セットにもよりますが、技術を合わせてしまえばRの大きいほうがタイムが出るケースが多々報告されています。
我々の世代はかつてもっと大きなサイドカーブで「よっこらしょ」とターンしていました。
ジュニア世代にも、今度は大きなカーブでのターンを身につけてもらう良い(?)機会かもしれません。
最後に繰りかえしますが、ルール変更やそのタイミングの操作によってメーカーが潤うことはありません。
それ以前の問題で四苦八苦しています。(スキー場もね…)

今度の冬は冬季五輪があります。
ノルディックとフリースタイル(モーグル)種目はメダル獲得の確立が高いようで、世の中の期待値もスキー連盟の予算の比重もそちらにいっているようです。
検定を受けるスキーヤーが払う検定料はスキー連盟に入りますが、基礎スキーは国際大会がありませんので競技対策としては同じスキーでも別の種目に回っていきます。
あまり考えてはいないと思いますが、検定受験者はこういった構造を意識したとき、疑問を感じるのでしょうか?


そもそも「スキー連盟」といっても、スキー競技にはアルペン・フリースタイル・ノルディックさらにはスノーボードまでを網羅しています。
普通は、もっと単一の競技で団体が組まれるものが多いのでしょうが、水泳(競泳・シンクロ・飛込み・水球など)、スケート(スピード・フィギュア・ショートトラック) や自転車(ロード・トラック・MTB・室内・BMX・シクロクロス)などはスキーに似て色々な種目を抱えた団体といえましょう。
しかし、基礎スキーのように国際大会のない種目が資金源となっている団体はスキー以外にはないのではないでしょうか?
この「ねじれ現象」はほかの競技団体には見られない現象でしょう。

8月26日スキー史上初のオリンピックスキー競技三冠を達成したトニー・ザイラー氏が死去しました。
三冠達成したのは1956年のコルチナ・ダンペッツォ五輪で、アルペン競技日本人唯一のメダリストの猪谷氏もこの大会でメダルを得ています。
今から50年以上昔(!)ですので、現在とは滑走技術が異なるのは当然です。


IOCのサイトhttp://www.olympic.org/MULTIMEDIAGALLERY/Video.aspx?Language=ukで当時の映像が見られますが、見てみてびっくり!(注:現在は見られません)
ものすごいコースです。圧雪車が入った形跡はゼロ(!)
スラロームは赤・青・黄色(!)三色旗状態です。
ダウンヒルでも自然地形のウエーブがバリバリ出ています。(ザイラー自身もウエーブで足を取られそうになりコケる寸前!)
しかもダウンヒルの途中できゅっとコース幅が狭くなるのでプルークで制動をかけるのです(!)
使用しているマテリアルは現在からみれば「原始的」とでもいえるものです。
ブーツは足首までしかありませんし、エッジもどこまで効果があるのかあやしい感じです。
よくよく見てみて、ハッと気がつきました。
アルペン三冠と言いますが、現在とは異なる意味で技術は三種目通じて非常に近いものを使っているように見えました。
もっと言えば、バランス保持が現在より格段に困難であり、それゆえSLからDHまでスピードが近く個人の技量でどこまで突っ込めるかで決まるという印象を持ちました。


これは例えばフォーミュラ1の自動車レースの時代感覚にも似ています。
何かワンアクシデントあったらそこで「おしまい」、ぎりぎりまで突っ込んでそれでも無事に切り抜けたなら「勝利」がある…という構造です。
ほとんどドライバー、スキーヤーの勇気・技量で勝負が決まっていたのが約50年前…。
現在はマテリアルが進化してしまった故に、まずその特性を生かしきることが前提となり、それを極めたものが勝利を収めるのです。

様々な「チェンジ」があった2009年も過ぎゆき、2010年がやってきました。
私の世代にとっては子供の頃2001年というのは21世紀で、まさに未来世界でした。それが「2010年」になってしまいました!
子供のころは当たり前に降り積もっていた雪も、とても少ないことが多くなりました。
スキー場は増えることはあっても、減ることなど考えられなかったのですが、本格的に「破綻した」だの「廃業する」だのという話があふれる状況になってしまいました。(一部、やっぱり営業する復活!なんて話も 笑)
スキー場もおおむね平年並みの日程でオープンしましたが現在までのところ、集客規模はどちらもキビシイようです。
さらに聞くところによれば、スキーに関する物販はかなり苦戦しているようです。(と、いうか「死んでいる…とも」)
やはり、スキーは仕事にしてはイケナイのかな?などと思う自分がいます。


信者の皆さんはほとんどスキーが本業ではないでしょうが、ご自身のお仕事で苦労されている方も多いものと察します。
しかし、雪山はリフレッシュ効果のある場所としてはかなり上位に位置するものでしょう。
現場は苦労しても、訪れる人がリフレッシュできる場所としてスキー場はまだまだ価値があるのではないでしょうか。
幸い今季は雪が十分あります。高速道路も土日休日は1000円乗り放題という環境もあります。
昨年度に比べれば環境は良いはずです。
まずは参加なのです。

バンクーバー冬季オリンピックも開幕間近となりました。
が、マスコミはますますメダル獲得の可能性が高そうな種目やテレビ映りの良さそうな選手にその比重を高めています。
某国営放送の五輪イメージタイトルの映像もそのようにできています。
我らがスキー競技に関しては、フリースタイル(モーグル)とノルディック(ジャンプ・コンバインド)にメダルの期待が高く、アルペンの女子に至っては派遣選手なしという状況です。
スキー連盟もますます資金確保が難しくなり、メダル獲得の可能性が高い競技に集中せざるを得ない事情はある程度察しはつきます。
昨年、国では「事業仕分け」という一種のショーが行われました。
そこで某女性議員が「マイナースポーツにこれほどの予算を…」と発言していた光景がTVなどに流れていました。
こうしたことも影響してくることは想像に難くありません。


冬季五輪の種目の中で、スキーほど大きな産業になっているものはありません。
特に、地方の山間部ではブームが去ったとはいえいまだに大きな収入源になっています。
そのスキーというものにおいてアルペン競技は技術の基本・根幹を成すものなのです。
モーグルやスキークロスで使っている技術のほとんどはアルペン競技の舞台で開発されてきたものであることを思い出してほしいものです。
スキー連盟登録の人数でいえば、アルペン競技がダントツで多く、フリースタイルでの人数はほんの少数にとどまっているのです。
「スキー」というものの振興を考えたら、やはりアルペンの層を大切にしていく必要があると思います。

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