説教の記録(51-60)


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51:2002年12月19日「市場原理は正義なのか」

52:2003年1月2日「03年頭のご挨拶」

53:2003年1月15日「世界で勝利する日本人とは」

54:2003年1月21日「佐々木明ウェンゲン2位―大回転の技術の意味」

55:2003年1月28日「ヘルマン復活―絶対スキー感」

56:2003年2月21日「天然素材のトレンド」

57:2003年3月12日「木村公宣選手引退」

58:2003年4月6日「スキーにおけるオンロードとオフロード」

59:2003年5月21日「かぐらスキー場春営業延長」

60:2003年6月19日「03スキー商戦滑りだし」

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近頃のセブンイレブンにはボジョレーヌーボーが並ぶようになりました。
セブンイレブンだけかと思ったら、近所のスーパーにもがっちり積んでありました。
元々はフランスワインの年中行事であったものがこんなにも日本で大々的に、
また全国隅々まで行き渡ってしまうというのはどうしてしまったのでしょうか?


2年前、「チョコエッグ」というお菓子が大ヒットを記録しましたが、
今では元々のフルタの他にタカラ、バンダイが「卵型おまけ付き菓子」に参入して三つ巴状態になっています。
当初はカルト的な人気を集めていたものが、すっかり普通のポテトチップスと同じように店頭に並んでいます。


これらは市場原理に基づいて売れそうなものが広く扱われるようになった例といえましょう。
「市場原理」という言葉は麻薬のようなものでこれを唱えればどこで何を扱っても良いように考える人が出てきます。
しかしそれは真実なのでしょうか?


「どこでも売っている」「どのメーカーも作っている」という状態は明らかにモノの価値を損ねます。
さらに、販売店が拡がるということは「訳もわからず売っている」状態の店が少なからず出てきます。
食品のように消費したらそれで無くなってしまう物はまだしも、
スキーのような耐久消費財では「訳もわからず売っている」店が存在すること自体、業界にとっての損失になると考える時にきているのです。


さすがにスキー業界もその点には気づき始めています。
最近の販売店の広告をみると「専門店」「プロショップ」を演出しようとする意図が見えます。
「市場原理」に基づいて「専門性」が「売り」になるという判断をしているのです。


そこで、ユーザーに求められるのは「訳もわからず売っている」のに、
「専門店」を装っている店を見抜くことでありましょう。

新年明けましておめでとうございます。


流行り廃りの激しいスキー業界ですが、スキーという運動の大原則は変わりが無いこと、大原則を会得するには「とっつきやすいが深みのないスキー」より「とっつきにくいが深みのあるスキー」が必要と考えて当教会を立ち上げました。
立ち上げて早いもので一年以上が過ぎました。
ブリザードが実際に「とっつきにくいスキー」であるとは私自身は考えていませんが、世間一般のスキーヤーの認識は残念ながらそのようになってしまっているようです。


スキーというのは趣味・楽しみですから当然「とっつきやすい」道具で楽しければ良いという人も存在します。
言いかえれば、そこそこの状況で簡単に扱えればそれで楽しいということなのでしょうが、
しかし、考えてみてください。
お手軽、簡単に手に入る喜びより、希少で手間のかかった喜びのほうがずっと深いのではないでしょうか。


当座、空腹を満たすためならインスタント食品で良いかもしれませんが、
どうせ食べるなら手間のかかった手作りの料理の方が味わい深いではありませんか。


もうひとつ、ブリザードに対する「食わず嫌い」を解消していくのも当教会の目的です。

もう少しするとサンモリッツでアルペンスキーの世界選手権がはじまります。
残念ながら、アルぺンレースの世界選手権、オリンピック、ワールドカップ全てにおいて日本人優勝者はいまだ現れていません。
世界の舞台で優勝者を出すことは日本スキー界の悲願と言えましょう。


体格、トレーニング環境など日本選手は欧米に比べてハンディがあるとは言われます。
とはいえ、いつのまにか「まずは欧米人に追いつかなければならない」という意識が日本のスキー関係者に植え付けられているのではないでしょうか。


欧米追従では彼らに勝つことは出来ないのです。
「ヨーロッパの最新テクニックをいち早く取り入れ」たとしても、日本国内のライバルには差がつくかもしれませんが、世界のトップにはなれないでしょう。
あわよくば、世界のトップクラスの仲間入りはできるかもしれませんが、「勝者」にはなれません。
取り入れた頃には彼らは大抵次の段階に進化してしまうからです。


抽象的ですが、競技種目の本質を考え、いかにして欧米人の上を行くかを考える必要があるのではないでしょうか。
かつて世界の舞台で勝利をおさめた日本人はそのところをしっかり考え、実行していたのです。

大相撲の横綱貴乃花引退のニュースに隠れてしまいましたが、2003年の1月19日という日は国際舞台で日本人スキーヤーが大活躍した日でありました。
モーグルで上村が初優勝。
スキークロスでは瀧澤が2位。
そしてなんといってもウェンゲンのスラロームで佐々木が2位という結果は画期的でした。
かつてワールドカップでは1988年に岡部の2位という記録がありますが、
今回はタイム差が100分の4秒しかないところが大変なことなのです。
距離にしたら1メートルもないでしょう。
優勝したG・ロッカに何か些細なミスや不運があればひっくり返ってしまう差だったのです。


そこで、一部のオタクレーサーが注目しているのは、「GS(大回転)の練習がスラロームに役立っている」という佐々木選手の発言です。
ショートカービングが使われるようになって、「スラロームの滑り方がGS化してきている」という論評が見られましたが、それを裏付けるような出来事といえましょう。
確かにターンの比較的早いタイミングからエッジをかませてカービングでクルリと回る様子は、一昔前のすばやく方向付けをして後半板を踏みつけ曲がる様子とはかなり異なっています。
それはまた、大回転のターンの縮小版を行うような状況になっているともいえます。


では大回転的でどんな要素が重要かといえば、足元・膝・腰・肩まで軸がしっかり通っていて、その軸がスキーに真っ直ぐ乗っている状態でありましょう。
それをスラロームの早いリズムの中で行うのです。
振り幅が大きければ体の軸が大きく振り子のように動くように見えます。
上体の動きによっては「タコ踊り」のように見えることもあるでしょう。
…そうです。ボード・ミラーの滑りです。


実は、この大回転的な要素はスキーの基本といってもよく、これができればオーモットのようにオールラウンダーとして通用するのです。
ボーディもオールラウンダー的な活躍を始めました。
佐々木選手ももしかしたらオールラウンダーとして活躍できるかもしれません。

1月27日、ヘルマン・マイヤーがキッツビューエルのスーパーGで優勝、見事復活を遂げました。
交通事故による怪我から一年以上、今シーズン初めも回復が充分でなく戦線復帰がずれ込んでいて、この復活劇です。
しかも舞台は地元のクラシックレースで世界選手権の前哨戦と実にドラマチックな展開といえましょう。


こうもきっちり復活できるのはなぜでしょうか?
優れたスキーヤーは「絶対スキー感(勘)」を持っているというのが私の仮説です。
優れた音楽家は「絶対音感」なるものを持っているといわれます。
あらゆる音に対して正確に音階で聞き分けることができる感覚だそうです。
歌手ならば、常に正確な音程を出すことができる人のことです。
先天的な天才と後天的な訓練の両方の要素があるとは思いますが、スキーについてもそういった類の感覚があるのではないでしょうか。


斜度、雪質、スピード、ターンの大小など様々な要素がスキーにおいては変化しますが、どんなときも最適な動作が見える状態を「絶対スキー感」と申し上げたいと思います。
身体が万全ならば後は「絶対スキー感」のとおりに動くだけで最上の滑りが実現できてしまうということです。


ヘルマンはインタビューに対して、
スキー教師をしていた頃はどんなに天候や斜面が荒れていても滑らなければならなかったから悪条件でも強い。
と答えたそうですが、環境に左右される部分の大きいスキーというスポーツではあらゆる環境を経験することが強い滑りを行うための重要な要件なのです。

毎年2月というのは次の冬に向けた商品の展示会が最も多く開催されます。
見ているとウエアでのトレンドは素材が天然系になってきています。
いかにも機能的な化学繊維は頭打ちとなり、コットンやウールといった表生地にダウン(羽毛)の中綿が多く採用されてきています。
こういった流れはシューズやバッグにも波及し、皮革やコットンキャンバスを使ったものが沢山みられます。


ではスキーのグッズにこのようなファッショントレンドは存在するのでしょうか?
色、柄は当然としても形などは機能が全てと思われるグッズですが、よくみると流行の影響が見られます。
古くはリアエントリーブーツというのもファッション的な要素が大きかったと思います。
同時期のウエアを思い浮かべてみれば足元がすっきりしていて、ブーツもあまりバックルが目立たないリアエントリーの方が相性が良かったのでしょう。
その後足元もボリュームのあるスタイルに移り変わってくると皆4バックルのブーツになったのです。


スキー板にも一時期よりはサンドイッチ構造であることをはっきりうたうものが増えてきましたが、これもキャップ構造の流行が最盛期を過ぎたと見ることができるでしょう。
ただ、キャップ構造はスキーの耐久性を手軽に高めることができるためこれからも多数派であり続けるでしょう。
現在のスキー板は表面に細かい凹凸をつけて表面に変化を持たせる手法が最新トレンドといえましょう。
A社のうろこ状の表面、F社のフリークエンシー、S社もファイバー系のものを貼り付けたかのような筋が盛り上がっていますが、いずれも機能的な説明がなされてはいますが、ファッション的な側面が強いことは否定できません。


天然素材が流行るという状況ですから、心材にウッドが流行るかな?などと思いましたが、表面に影響しないのにコストに影響するものを大メーカーは採用しないようです。

木村公宣選手が志賀高原焼額山のレースを最後に引退を表明しました。


その木村選手の全盛期は長野五輪前後の'97、'98年頃でしょう。
当時はショートカービング前夜とでも言うべき時代で、スラローム用スキーの方がリーゼンよりサイドカーブが浅かった(!)時代です。
長身を生かし、長いスキーをすばやく方向付けして短くエッジングするスタイルが特徴で、急斜面で強さを発揮するタイプだったと言ってよいでしょう。
実際、世界一急傾斜と言われる焼額山であわや表彰台の4位という成績を残しています。
私事で恐縮ですが、そのときの会場の熱狂ぶりたるや怖いくらいのものがありました。
試合後、大会記念グッズの販売を手伝ってしまったのですが、
もう興奮冷めやらぬ観客の皆様が殺到してうれしい悲鳴を上げたことを思い出します。
「地元日本で日本人のためにワールドカップスキーを最も盛り上げた選手」が木村公宣というスキーヤーなのです。
ただ、ショートカービングのスラロームになりだいぶ様相が変わってしまった中でよく続けていたなあ…というのが正直な感想です。


木村選手に続く日本人選手はどんな状況かと言えば…
2000年、皆川賢太郎はショートカービングになった直後、どんどん前に乗り込んでいって弧の小さなターンを続ける滑りで一時センセーションを巻き起こしました。
さらに今シーズン、佐々木明の大ブレイクがありました。
ショートカービングが定着し、内傾気味だが身体は最短距離を通過する滑り(ボード・ミラーに代表される)を実践しての今期の活躍と言えるでしょう。
日本にもそれなりに時代の変化に応じたテクニックを体現した若手が出てきているのです。


この3シーズンはマテリアル、技術があまりに大きく変化してスラロームのトップシードは激しく世代交代してしまいました。
この状況で、カレ・パランダーはショートカービング前後の時代で勝っているのはかなりすごいことではないかと思います。

今年も各社来季モデルの情報が出回り始めました。
レースにおけるルール規制の影響もありますが、サイドカーブの変化は落ち着いてきたようです。
今後は幅やしなり特性、振動吸収をどうするかが話題になってくるものと思われます。


幅といえば、超幅広の「ファットスキー」がここ最近各社から発表されるようになりました。
これはパウダースノーのことだけを考えたいわば不整地専用スキーです。
ブリザードにもそれにあたるラインナップが組まれています。


カービングスキーを気持ちよく使おうとするときれいに整地された雪面が良いのですが、それだけではつまらなく感じる人も出てくるはずなのです。
まあ、レースならポールセットでタイムを短縮するとか、基礎スキーヤーなら検定合格を目指すとか、整地の中でもプラスアルファの楽しみはありますが、敢えてコブや不整地を滑りたがるスキーヤーが増えてくるのは世界的な流れであるようです。
ずれの少ないカービングターンの反動ともいってよいでしょう。
その結果、自動車やバイクの世界にある「オンロード」と「オフロード」のようなカテゴリーの分離がスキーにおいても進んできています。
整地用と不整地用で各々の分野に特化したマテリアルに進化(?)しているのです。


かつては状況の変化には乗り手のスキーヤーが対応していたものがマテリアルが対応するようになったという見方もできます。
その分乗り手は楽になりましたが、それは技術的には堕落であるという論議もあります。
当教会では、特化したマテリアルによってそれに適したシチュエーションを滑れば限界が上がり、また別次元の技術が要求されると考えます。
その上がった限界に挑むか否かは各々のスキーヤーにゆだねられているのです。

5月11日、新潟県かぐらスキー場は近年まれに見る混雑に見舞われていました。
久々のリフト待ち、滝のようにコブ斜面を滑り降りる人々の波。
その場に居合わせた人々は皆、ただただ驚いていたことと思います。


しかし、その後もっと驚くべき事態が待っていました。
そうです。いきなり、6月1日までの営業延長決定です。


14日(水)までは営業終了という前提で、スキー場設備の片付け作業はしっかり済ませていたとのことです。
ところが、15日(木)の朝一番で、延長決定がなされたのです。
現場レベルではかなりの混乱があったと思われます。


昨年であれば、オタクスキーヤーはザウスへ行こうかどうしようかと思う季節ですが、今年はそのザウスが無いわけで、かぐらなどは極めて魅力的に見えるはずです。
雪質がザブザブでも、営業リフトが一人乗り二本だけでも、斜面の質としては、ザウスよりもはるかに良好といえます。
やっと、スキーヤーのニーズにスキー場側が気づいたといえましょう。

久々の説教です。
先日、ICI石井スポーツの東京展示会が例の新宿スペースゼロで開催されました。
毎年業界の動向を占う最初のイベントといえます。


不況、スキー離れが進んでいるといわれる中、来場者数は昨年並みを確保できたという噂を聞いております。
オタク度の高いスキーヤーはその数を減らしていないということでありましょうか。
しかしこれまた噂ですが、年齢層は学生層が減少し、ますます高齢化が進んでいると言われます。


気になるセールスの方はというと…予約の成約は昨年を下回ったようです。
まあ、不況、不況といわれる中ではまず予想の範囲内といえましょう。


残念ながらオタクスキーヤーだけでは業界は維持できません。
業界を本当に左右するのはそのような展示会に現れてこないオタク度の低いスキーヤーがどのくらい買ってくれるかというところなのです。

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