2008年5月22日 霊峰富士で神を見る(?)

5月8日の記事で「プロジェクトF」などと勿体つけたことを書いたが、要するにこれは富士山からのスキー滑降である。
滑落事故などあるとマスコミが異常に騒ぎ、地元自治体では「禁止」したいが法的根拠がなく「自粛呼びかけ」を行っている。
以前「禁止」表示の看板を立てたが、法的根拠がない点をかなり叩かれたそうだ。
危険度でいえば北アルプスも同様でありながら長野県などは特に禁止への動きはなく、静岡県・山梨県のこういった姿勢に疑問を呈する意見もある。
実態としては夏場の登山同様、日本で最も多く山岳スキー・ボードが集まるエリアになっているようだ。

富士宮(静岡)からか富士吉田(山梨)からかで直前まで迷ったが、富士宮に決めた。
理由は、
●最高峰剣が峰に近く、お釜のドロップポイントも近い
●南面であり、極度のアイスバーンになる可能性が低い
●登りスタートの標高が一番高い(2400m)
●五合目までの道路がタダで通行に時間制限がない

逆に富士吉田側は吉田大沢という巨大雪渓があり圧倒的に滑走距離が長いのが特徴。
これはライブカメラなど見ればすぐわかるが、北面であるゆえ基本的に積雪が多い。
そのかわり山頂付近は凍ると手のつけられないアイスバーンになるとのこと。

装備は、スキー:TITAN9、ブーツ:黒犬160、ストック:BDフリックロックトラバースの古いの(二段式)、ザック:オスプレイのエクリプス42、アイゼン:グリベル10本爪、ピッケル:グリベル軽量タイプ、メット:ボエリのレース用、ゴーグル:スワンズ、サングラス:オークリーM、他にも緊急用ツエルト、ヘッドランプ、補助ロープなどなど。
ザック総重量は約15kgになった(´Д`) =3
考え方は、
●アイスバーン状況もあり得るため、ルーズな山スキー用の板・ブーツではなく安定性の高いファットスキーとレーシングブーツで行く
●登りは登山靴(アゾロの縦走用)にアイゼン、その間スキーブーツはザックの中(エクリプス42でぎりぎり収納)
●万が一転倒滑落した場合に備えてメット使用
と、いうような感じでのチョイス。

新五合目駐車場

当日は5時頃に五合目に到着。

着いてみると、いきなり「おはようございます!」と声をかけられた。
「あれっ?」と思ってみてみると、以前私が高崎にいた頃知り合ったバックカントリーガイドの峯岸君ではないか。
現在は「筋斗雲」というガイドクラブの代表として活躍している。
聞けばツアーでお客さんを連れて来ているとのこと。
昨日は高度順応のため途中まで登って、今日は山頂までいくそうだ。
最近運動不足の私は彼らよりも早めに出ることにする。

出発は5:40分ころ。

登り口

通常の登山口は完全に雪に埋まっていて使用不能。
今年はやはり雪が多いそうである。
そこで、駐車場エリア端のところ(ブル道入口?)から登る。
いきなり雪上歩行だが、ザラメが固まった状態のため滑ることなく岩の上を歩いているような感じだ。

新六合目

20分程度で新六合目到着。(6:00頃)

標高差も五合目とは100mしかなくここまでは全然楽勝。
山小屋(この辺は山室というらしい)が二件並んでいてその奥に登山道が伸びている。

しばらく雪渓と夏道がミックスされている状況で、人によって雪渓を選んだり夏道を選んだりするが、私は登山靴のまま夏道を進んだ。

雪渓の末端

六合目と新七合目の中間あたりでまとまった雪渓に出くわす(下部雪渓)
画像はその下端。

ここからはほとんど雪上歩行でいけそうなので、アイゼンを装着。

ひたすら登る。
雪はザラメが冷えて固まった状態。
なかなか歩きやすい。

七合目付近

一時間ほど登ると隣の雪渓(中間雪渓)へのブリッジがある。
ちょうど元祖七合目の小屋がある。

前日滑った跡があり、ルートはこの方向だということがわかる。
ちょうど山に向かって右側に移ることになる。
出来るだけ実際に滑るルートをたどりながら登ることにした。

私の影

今回自分のことはほとんど撮影できなかったので、とりあえず影だけ(笑)
ザックの両サイドに板を立てている。

まだ標高も3000m以下なので調子よかった。

中間の雪渓

中間の雪渓。

先行する人たちが小さく見える。
幅は普通のスキー場でも良く見かける感じ。
前日滑走した跡が散見された。
日差しがどんどん強くなっていく。
風も出てきた。

救護所

八合目小屋に隣接した救護所。
もちろん夏山登山のシーズンのみ開設で、このときは誰もいない。

かなり風が強くなってきたので、建物の影で大休止。
少し行動食をとる。
風も強く寒く感じたのでメットをかぶってしまう。

ここから上は雪渓が何本もありお互いつながっているような、いないような…登りながら見ると滑降ルートがわかりづらかった。
(滑っていったらわかりました)

メインの雪渓

登りながら右側へ移っていくと出ました!メインの雪渓です。

山頂から八合目の下辺りまで伸びていた。
幅も下の雪渓とは違い桁違いに広かった。
アホみたいに広いぜ!

しかし、ここからが長かった。
八合目で3250mあり、当然空気が薄い。
高山病の症状は出なかったが、とにかく息苦しかった。
ペースが上がらず、どんどん追い抜かれていく。

私よりも20分は遅く出たはずの筋斗雲ツアー一行にも抜かれた。
でもいいんだもん、滑るのが目的だからね…

筋斗雲ツアーの面々

と、その筋斗雲ツアー一行。
みなさんなかなかの健脚。
見ると全員スノーシュー使用。
確かに最初は雪面も朝一は冷えていて硬いけど大体9時頃から緩んでくる。
そうなるとアイゼンだけでは足がもぐったりズレたりするので、スノーシューは良いですね。
もうひとつはクライミングサポート(かかとを上げて斜面でも自分の足は水平に近い状態にする)が効果ありそう。

画像は九合五勺(3550m)
私も結構つらくなってきたのでここで大休止。
水分を取って10分ほどノビノビしたら復活!

山頂までもうすぐ

もう頂上は間近に見えるのだが、ここからまた大変。

風が強烈でザックにつけた板がかなり煽られる。
耐風姿勢をとりながらノロノロ登った。
左右腕のストックと左右足のアイゼンで計4箇所、そのうちひとつづつ動かしていく。
強風の中で板が煽られつつバランスをとるのはそれだけできつい。
雪面も硬かったり柔らかかったりでアイゼンの入り方も一定せず結構気をつかわされた。
最後やや斜度のあるところで踏ん張るとアイゼンではふくらはぎが極度に緊張する。
もうプルプルになりましたヨ!

山頂入り口の鳥居

やっとたどり着いた山頂入り口の鳥居。

なんと約7時間もかかってしまった(!)
時刻は12:40
相変わらず天気はよいけど風が強い。
鳥居直下は路面が氷そのものになっていました。

このすぐ上に山頂富士館があり、その建物の陰に荷物をデポして剣が峰に向かおう!

当初はお釜に滑り込もうかとも考えていたが、ここまでの登りでヘロヘロになり風も強いし、あっさり中止。

剣が峰を望む

剣が峰。

全体にまだ雪に覆われていた。
やはり今年は雪が多いのであろうか。

見るとお釜に滑り込んだ跡が何本か…
結構急な感じではあるが、別に危険な気はしなかった。
ただ、登り返しがかなりつらそう。
このときのコンディションでは滑る気にはなれなかった。
お釜を滑るなら、まずは体力づくりをしてからである。

ドーム跡上空に飛行機雲

アイゼンつけたままストック持って剣が峰に登った。
途中強風が吹きつけたが、なんとかこらえて進む。

先行していた人たちはすでに滑降を始めていて剣が峰周辺にいるのは私一人だった。
富士山頂5回目、剣が峰3回目だが、こんなに静かなのは始めてだ。

見上げると一筋の飛行機雲。
建物はレーダードームの撤去された測候所である。
測候所は天ぷらの衣のように氷をまとっていた。

お釜を見下ろす

測候所からお釜を見下ろす。

お釜の中に滑り込むとしたら、このあたりからになるはず。
手前の手すりみたいなものの向こうからスタートかな?

お釜は見ると、やはりかなり深い。
私はここにいるだけで目いっぱいであった。

3776m地点

3776m地点。

一応証拠写真をセルフタイマーで…
不思議なことにここは風がほとんどなかった。
周りに人がいなかったので、余計に静寂を感じた。
不思議な経験である。

はるか後方に広がるのは山梨県。
すこしモヤってきた。

時刻は13時過ぎたところ。

雪に埋もれた奥宮

富士浅間神社奥宮。
隣には有名な郵便局もある。

社殿・鳥居はご覧の通りかなり雪に埋まっていた。
相変わらず風が強い。

近くにスノーボーダーの方が3人いてデジカメのシャッターを押してもらった。
こういう場所では皆フレンドリーになるものだ。

軽く昼飯も食べる。
あんパンやチーズなど食べたが、風が強すぎて落ち着いての食事など不可能だと思った。

さあ!黒犬靴をはくよ

さて13:30だし、そろそろ滑降の準備をしないとね。

ここで大変なのが靴の履き替え。
黒犬160は滑降性能は最高だけど、とても数時間の登山で履く気にはならない。
なのでザックに入れて担ぎ上げた。
そして酸素の薄い約3700mの高地でシェルガチガチのブーツに履き替えるのだ!
ちょうど夏場はベンチになるのだろう木の台があったのでそこを利用した。

登山靴を脱ぎ、二重にしていたソックスを一枚減らす。
まずインナーを履き紐を締める。
そこからインナーをシェルに突っ込むのだけれどこれが入らない!
日差しはあっても風はビュービュー吹いているので、黒犬のシェルはよ〜く冷やされてガチガチ。
がんばっていると空気が薄くて頭もクラクラ、すっ転びそうになる。
悪戦苦闘しながら、片足に10分づつかけてようやく完了!
近くにいたスノボの人たちはさぞ変な人だと思ったに違いない。

滑り出しポイント(ドロップポイント)

ブーツも履けたし、ザックも軽くなったし…と思いきや…
ギリギリギリ……
足が痛ぇ〜
めちゃくちゃブーツ内で「あたり」を感じる。
恐らく高度によって足が膨張していたのではないかと思う。

いまさら脱ぐわけにもいかないので、かまわず板を履きゴーグルつけてドロップ地点に移動。
頂上富士館の剣が峰側から行こう!(画像はドロップ地点から下を覗いたところ)
ただ、風のせいだろう雪面はガチガチで、最初は岩もわずかながら顔をのぞかせている。

スタートは14時過ぎ。
最初はカリカリのハードバーン。
「苗場の大斜面を10倍くらいに拡大してよ〜く冷やしたような」なんて例えでイメージできるかな?
でもエッジもギンギンに立てておいたから平気だもんね!

最初数十メートルは岩を避けながらデラで降りる。
もうそれだけで細かい雪の破片がバラバラ落ちる。(下にいた人すみません!細かいから怪我なんかしないけど)
その後は人のいない広大なバーンを滑るのだ!

雪面は大きな凹凸はないものの、ピステンで整備したゲレンデではないので、細かい凹凸が削られてパラパラ落ちてくる。
その細かい雪の破片と追いつ追われつしながら滑る。
TITAN9はかなり安定感あるが、ここまで雪面が硬いとレーシングの板の方が切り込めそうな気もした。
実際、はじめは雪面が硬いならSLの板を使おうかとも思っていたのだ。
滑り終わった今でもSLも良いかな…と思っている。

あっという間に九合目まで

空気が薄いのでちょくちょく止まらないと息が上がってしまう。
それと、登りでかなり脚を使ってしまい滑降でつかう体力があまり残っていなかった。

休み休み滑って数分も経つと、九合目付近からいきなり雪面が緩んできた。
シュプールがかなり深くなっているのがはっきりとわかる。
カリカリ→サクサクという感じ。
こうなれば多少ルーズな山スキーのマテリアルでも安心してすべることが出来るだろう。
ハードバーンの経験がない人などは九合目付近で滑降に移るというのも安全面からは考慮すべき選択肢だ。
滑落事故は、恐らくエッジの手入れ不足、滑降技術の未熟などが要因となっているのではないかと思う。

メイン雪渓もおわり

何とか脚を痺れさせながらも滑っていくと、10分ほどで山頂からのメイン雪渓も終わりかけてきた。
左手に宝永火口が大きく見えてくる。
(画像でも左側)
雪面の緩みも激しくなりサクサク→ザクザクという状況。

と、同時に脚の疲労も極限に…
左脚のふくらはぎが攣ったが、ブーツで固定されているので何とかなる。
でも腿での踏ん張りが利かなくなってきた。

中間雪渓へのブリッジは途切れていた

メインの雪渓から中間の雪渓に移るところ、残念ながら雪は途切れていた。
一度板を外して、数メートル歩くとまた滑りだせた。
ここは地形から夏道ではないかと思われる。

ここはもしかしたら昨日までは雪がつながっていたのかもしれない。

中間雪渓のから下を見る

中間の雪渓。

雪面はザクザク→ザブザブ

まだ雪面は登行の足跡とシュプールくらいしか凹凸がない。
まだまだ楽しめる(脚力に余裕あればね)状況だけど…
なんとかだましだまし滑った。

下部雪渓への幅広ブリッジ

中間雪渓から下部雪渓に移るブリッジ。
元祖七合目付近。
雪渓がなくなりそうになると麓に向いて左側にある雪渓に移る。
ここは積雪十分であと数日持ちそうだ。

下部雪渓

下部雪渓。

表面の凹凸も大きくなり、汚れもかなり目立ってくる。
スプーンカットとはまた違ってそれよりも丸みを帯びている。
雪質は、ザブザブ→ドロドロ

まとまった雪渓も新七合目の下まで。
だんだん雪渓が短くなってくる。
六合目の小屋も見えてくる。

この辺まで来ると脚もつらくて正直あまり面白くなくなってきた。
ここまで山頂から約20分。

六合目まで途切れ途切れの雪渓

下部雪渓が終わると登山道を歩いたり、小さな残雪を拾って滑ったりと結構面倒くさかった。
それだけで時間も15分か20分ほどかかった。
最後にややまとまった残雪が六合目小屋まで続いていた。
これが一、二週間も早ければ6合目まで滑って降りられたかもしれない。

六合目の小屋前でブーツを履き替え。
後は登山靴で五合目駐車場まで歩いた。
左ふくらはぎが攣って痛くてたまらなかった。
駐車場着は15:20頃。

滑ってみて思ったのは、あくまで登りきった後に滑降するための脚力が残っているのが楽しむための条件だということ。
今回はほとんど余力のないまま滑降に移り、かなりきつかったというのが正直な感想である。
フィジカル面では紛れもない「超ハード修行」である。

山行概念図

左画像は今回の山行の概念図。
あくまで「こんな感じ」くらいという内容である。

マテリアルに関しては、ハードバーン→ザラメという雪質変化に対してはセミファットの板が適しているように思った。
09ブリザードのラインナップで言えばマグナム、G-フォース、SLR、使い古しの(笑)SLなんてのもありかな?
私が乗ったことのある他社板ではハードバーンに強そうなF社のプログレッサー、N社のHOT ROD(センター幅70mm台のモデル)などもいけると思う。
いずれにせよ、エッジはギンギンに立てておくべきだ。さもないと滑落の確立が大幅に高まる。
ザラメ雪であろうがエッジは立てておくべきだというのが私の見解である。

ブーツはハードバーンでのエッジングを考慮すると、山スキー用の兼用靴などは不適でレーシングorデモ用である程度ワイズの広いタイプが良いように思う。
N社黒犬ならDBプロあたりが良いのではなかろうか。
ちなみに駐車場では黒犬アグレッサーを用意していた方を見かけた。

今回行ってみた富士宮側よりも幅も長さも大幅に勝るという吉田大沢も滑りたいと思っていたが、その前に体力補強が必要がと痛感した。
いつか吉田大沢にも行く!(かも)

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